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九話 終幕

 夕日が沈む頃。


 キョウカと別れたヤエカは一人、町を歩いていた。


 その途中、目の前に見慣れた女性がこっちを見て手を振る。


「こんばんは。ヤエカちゃん」

「……魔女さん」


 変わらぬ笑顔でヤエカに微笑んだ。


「今からどこに行くのかしら?」


「別に、どこでもいいでしょ?」


「う~ん、つれないわねえ」


 どうせ自分の行動など魔女はとっくに気づいているだろうと思い、避けるように彼女の横を通り過ぎる。


「勝算はあるの?」


 通り過ぎるヤエカに魔女は問うが。


 お節介としか思えない言葉にヤエカは返事をしなかった。


「二人の高校生を守る為に、死ぬかも知れないわよ?」


「………………」


「……そう」


 ヤエカが何も口にせずとも、魔女は納得したように呟いた。


「ヤエカちゃん、頑張ってね」


 それだけ言って、魔女はヤエカに背を向け去ってゆく。


 そして、ヤエカは軽く息を吐くと、近くに停まっていたタクシーへ乗り込んだ。








 完全に日は沈み、街灯の明かりが町を照らし出した。


 その頃とあるマンションの一室では、狂ったような笑みを浮かべながら、椅子に縛り付けた少年を見つめて悦に浸る。


「ああ、久しぶりだね、レオ……今いくつになったんだい?」


「…………」


 レオは答えない。男に話す口は持たないと言わんばかりに。


「その子は君の彼女かい? 君も色恋沙汰に関心を向く歳になったんだねえ」


 男はレオの横で縛られているコトギに目を向ける。


「しかし、この子からは何も魅力を感じない。正直、君と一緒に映るのは不快でしかない」


 すると、それまで黙っていたレオは口を開いた。


「お前が彼女を馬鹿ににするな!」


 レオの一言に一度驚くと、骸惰は急に無表情になる。


 そしてレオに近づき、思い切り頬を殴った。


「違うだろっ! 君が俺に向ける目はそんな勇ましい目じゃないんだ! もっと怯えながら助けを乞うような儚い表情を向けてくれなきゃダメなんだよ!」


 右手と左手を交互に振り、レオの顔面を殴り続ける。


「もっと悲痛に悶え苦しむ顔を見せなきゃ絵にならない! どうしてそれが分からないんだ! 何故言う事を聞かない? なあ? なあ!」


 突然のヒステリックに耐えかねたコトギは骸惰を静止させる。


「もうやめて! レオ君が死んじゃう!」


 しかしその言葉がさらに骸惰の癇癪に拍車をかけた。


「やめろだと? 君のような無価値のゴミが俺に意見をするんじゃない!」


 怒りの矛先はコトギに移る。


 容赦のない拳がコトギを痛めつけた。


「やめろ! コトギさんは関係ないだろ! 殴るなら僕だけにしろ!」


「だから……その目をやめろと言っているだろおおおお!」


 止まらない狂気の猛攻。


「許さない……絶対に許さない! 俺の言う通りにしない君も、俺に意見するゴミも、俺が人を殺す事に批判するメディアも邪魔する警察も、絶対許さない!」


 身勝手な自己主張が部屋中にこだまする。


 そんな中、奥で腰をかけていたグレゴアは退屈そうに骸惰に訴えた。


「おいおい、いつまで続けんだ? さっさとお前さんの作品とやらを仕上げてくれよ。じゃねえと肉食えねえだろ」


 グレゴアの一言に、骸惰は一瞬凍りつくような殺気を向けるが、その怒りはすぐに鎮火した。


「……そうだな、熱くなってしまった」


 そして男は近くにあるナイフを手に持った。


「レオ、君の絶望した表情が見たい。だが、君をいくら痛めつけてもその顔は変えてくれないのだろう」


 そして男はコトギの目の前に立ち。


「まさか……やめろ……」


「君の彼女を目の前で少しずつ切り刻んでいく事にするよ。君が悪いんだ。君が俺の言う通りにしないから……」


 冷たく光る刃先を見つめ、コトギは恐怖に怯えた。


「やめろっっ!」


 と、その時。


 骸惰のケータイに着信が入った。


 番号は非通知。


 興ざめした骸惰はナイフを放り投げ、ケータイを手に取った。……すると。


『久しぶりね、骸惰』


 女性の声に骸惰は疑問に思う。


「誰だ?」


 電話の相手にそう返すと。


『分からない? あなたが七年前に逃がした立河上 八重香』


 すると、男は目を丸くした。


「八重香……八重香なのか? 今どこにいる?」


『あんたの部屋の前だよ』


 と言うと、突然玄関の扉が開き、ナイフを持ったヤエカが侵入してきた。


 その光景に驚くと共に、骸惰は興奮したように笑みを浮かべる。


「あ、ああ、今日はなんて良い日だ。ずっと追い求めていた子が二人も俺の目の前に現れるとは」


 光悦に満ちた表情、しかしそれは不気味であり、汚物を見る目でヤエカは床に唾を吐いた。


「しかしどうやってマンションのロックを解除したんだい? ここは暗証番号の他に指紋認証も必要なはずだが?」


「そんなもの、私にかかればいくらでも書き換えられる」


「すごいな八重香。立派に成長したね」


 と、ヤエカの詳細は分からずとも温かい目で見つめる骸惰。


 その顔が、その言葉が、何よりヤエカの怒りを心頭させるも、静かにその憎しみを鎮めた。


 ヤエカは椅子の上でぐったりしているレオにケータイのレンズを向ける。


(まだ生きてる……よかった)


 ホッと息を吐いて、再び骸惰を捉えた。


「答えて。どうしてあなたは罪のない人の命を奪うの?」


 男は再び真顔になりながら答える。


「八重香、君もか。君もレオと同じ反抗的な目をするんだね。……いや、その目は、もしかして君、目が見えないのか?」


 と、ヤエカの定まらない視線を見ながら心配そうに尋ねた。


「だったら何だっていうの? いいから答えてよ」


 骸惰はヤエカを心配して言ったのだが、当のヤエカに辛辣な返しをされた事により再び頭に血が上る。


 そして、ナイフを持っているヤエカに臆する事無く怒りのまま彼女に襲い掛かった。


「人が心配して言ったのに……なんて口の利き方だっ!」


 満足に視野を見渡せないヤエカでは男の動きが読めず、純粋な腕力によって簡単にねじ伏せられる。


「グレゴア、縛るのを手伝え!」


「ったく、ダラダラ時間使いやがって……つーかこの女何しに来たんだ?」


 そして二人の男によって、ヤエカはいとも容易く縛り上げられた。






 部屋の隅に椅子が三脚。


 それぞれ一列になって並べられ、三人は拘束されていた。


 そして皆、身体中痣だらけになり抵抗する力もない。


 その状況の中、グレゴアは骸惰に問う。


「骸惰、いつまでそうやって眺めているんだ?」


 骸惰はビデオカメラを取り出し、三人の姿を撮影していた。


「久しぶりの楽しい時間だ。弥由美を描いた時よりもずっと興奮するよ」


 男にとっての作品達を愛でるように、目の前の傷ついた身体を眺める。


「そこの娘は作品じゃないなら、もういいだろ?」


 そんな中、なかなかご褒美にありつけないグレゴアは不満を漏らす。


「ああ、すっかり忘れていたよ。好きにするといい。お前が彼女を調理する様をレオにも見せたいしな」


 と、骸惰は狂人染みた発言をする。



「や、……めろ……コトギさんは、関係……ない」


 必死でレオは訴えるが、その声にはもはや力はない。


 この状況を静かに見ていたヤエカは、骸惰に問う。


「さっきの、返答がまだなんだけど……。どうして罪のない人を殺すのか、答えてよ」


 ヤエカ自身、全身を殴られた痛みで意識が朦朧とする中、少しでも時間を稼ぐ為。


 骸惰は先程よりも上機嫌で彼女に答えた。


「そうだったね八重香。理由はそう、最高の作品を仕上げる為だよ。人間の痛々しく苦しむ様を見ているとね、とても癒されるんだ。そしてそれをもっと多くの人達に伝えたくてね。だから俺は絵を描く仕事に就いたのさ。決して色褪せる事無く永遠に輝き続ける君達を後世に残したいんだよ」


 ヤエカはその理由を知っていたが、面と向かって言われると余計に腹が立った。


「そんなものの為に、多くの人を……私の両親を……妹を殺したのかっ!」


 我慢が出来なかった。


 この男の自分勝手な欲の為に全てを奪われた憎しみが爆発した。


 だがヤエカよりも、その言葉を聞いた骸惰のほうが逆上するのだ。


「そんなものだとっ! お前は! 俺の作品より自分の家族の命のほうが大切だと言うのか!」


 逆ギレも甚だしい言い分。


「ふざけるなっ! 絶対に許さない! お前を生む事くらいしか価値のないゴミを処理してやったんだぞ! 謝れ! 俺の作品がお前の親より劣っているとナメた口を叩いた事を詫びろ八重香っ!」


 とち狂ったように暴れる骸惰は、縛り付けていたヤエカを引き剥がし、地面に叩き付け足蹴にした。


 それでもヤエカは引き下がる事無く男に反論する。


「ふざけてるのはお前だゴミクズ野郎! お前みたいな害虫如きが人様に危害を加える事自体間違ってるんだよ! お前こそ、今まで殺した人間の墓の前で百万回土下座したのちに死ね!」


「八重香ああああああ!」


 ヤエカの言葉に完全に周りが見えなくなった骸惰は彼女の胸倉を掴み、手に持ったナイフを突きつける。


「お前はああああ! お前だけはあああああ!」


 今にも彼女の胸を刺そうとした、その時だった。



 突如、部屋の電気が消え辺りが暗転する。



 突然の事態に部屋にいた全ての者は固まった。


 ヤエカを除いて。


「時間切れだよ……骸惰」


 ヤエカの発言に「何の事だ?」と骸惰は問う。


 停電していた電気はすぐに復旧し、再びライトが部屋を照らした。


「今この建物内の全てのセキュリティーは解除された。間もなく警察がここにやってくる」


「……なんで、そんな」


 動揺する骸惰に、さらに追い打ちをかける。


「もう少し証拠を残そうと思ったけど……まあこれだけあれば十分でしょ」


 と言いながら、ヤエカは首元から小型の盗聴器を放り投げた。


「渦芽 響香からもらったものだよ。あんたにどうあっても言い逃れ出来ないように証拠を押さえとけって」


「……響香とも、繋がっていたのか?」


「今、彼女のボイスレコーダーから様々なネットワークを通じて、あんたの声を全世界に流出させているでしょうね」


 数時間前、ヤエカはマンション内にある全ての電子セキュリティーをハッキング出来るパスコードをキョウカに託していた。


 そして自身に盗聴器を取り付け、常に現場の声をキョウカに伝えられるようにし、頃合いを見てマンション内の電源を落とす。


 復旧したその合図で、セキュリティー解除された敷地内に警察の特攻隊が突撃するという旨を事前に鉤島に伝えていた。


 さらに都合が良かったのが、骸惰が撮影していたビデオカメラ。


 彼女の持つ『電子プロビデンスアイ』の力で脳に転写した目の前のビデオカメラの映像を、キョウカのパソコンにもリンクさせる事で状況を素早く捉える事ができ、また、その映像も証拠品として残せる。


 結果、骸惰は時間をかけた事により思いもよらない反撃を被った。




 怒りに打ち震える骸惰。


 ヤエカはそこに最後の一打を加える。


「キョウカからあんたに伝言を頼まれてるの」


 それはプライドの高い自分勝手な人間の、神経を逆なでする壮絶な悪口。


「『あなたのお絵かきごっこにもそろそろ飽きたから、凡人はここらで退場しなさい』ってさ」


「くっ……ううう……!」


 今にも爆発しそうな狂人だったが。


 このタイミングで、玄関の扉が壊れる勢いで複数の特攻隊員が突入した。


「動くなっ! 今すぐ両手を頭の上に上げろ!」


 特攻隊員の叫ぶ声に、骸惰のボルテージは消沈する。


 その特攻隊員に交じって鉤島と菜夏の姿もあった。


「レオ君、コトギちゃん! ああ、こんなに痣だらけになって」


 涙ぐみながら菜夏は二人の縄を解き抱きしめる。


 その横で静かに鉤島も呟く。


「間に合ってよかった。……本当に」


 そんな鉤島をレオは見つめ、ふと。


「鉤島さん、顔、怪我してますよ?」


 何かと争った跡が残っていた。


「君達程じゃないさ」


 ここに来る前、鉤島はレオとコトギをさらった男達、グレゴアに雇われた元構成員二人とマンション近くの路上で争っていた。


 菜夏と二人で男らを取り押さえたのだが、レオはこの事を知る由もない。





 骸惰とグレゴアを取り囲むようにして特攻隊員は壁際に追い込む。


「くっそ骸惰! お前がモタモタしてたせいでこんな事になっちまったじゃねえか!」


 と、グレゴアは骸惰に文句を垂れるが、骸惰は気にも留めず、呆然と佇んでいた。


「署まで連行する。大人しくしろ」


 そんな骸惰を取り押さえようと特攻隊員の一人が近づく。


 すると。


 突然骸惰は地面に落としたナイフを拾い、隊員に向かって振りかかった。


「なっ、貴様!」


 そして隊員から距離を取ると、骸惰はナイフの切っ先を自分の胸元に向け。


 思い切り刺し込む。


 ……しかし。


 寸前の所で骸惰は手を止めた。


 いや、自分で手を止めたわけではなかった。


 自害しようと思っていた骸惰の手を止めたのは、自分でも理解出来ない金縛りだった。


「……なんだ、これは?」


 不可解な現象に動揺する骸惰。


 その様子を見たコトギはゆっくり立ち上がり、骸惰に伝える。



「あなたが自殺なんて出来るわけないじゃないですか。……させてもらえるわけないじゃないですか」



 彼女の目に映るのは、夏美を含めた十数人もの死者。


「あなたに命を奪われた人達が、この程度で許すわけないでしょう?」


 その亡霊達が、骸惰を押さえつけている。


 これから死刑になるまでの間、いつ何時だろうとこの男を苦しめ続けるという意思が垣間見れた。


「取り押さえろ!」


 そして、一連の事件を引き起こした殺人鬼及びその共犯者はまとめて署に連行される。









 無事保護されたレオとコトギは、病院で治療を受けたのち、鉤島の車で家まで送ってもらう事となった。


「後日君達にも事情聴取を受けてもらうが、今日はゆっくり休んでくれ」


 これで本当に終わったのだと、二人は心から安堵した。


 そんな時、何も言わず去って行こうとしたヤエカを鉤島は止めた。


「立河上さん、君も乗りなよ」


「いや、私はタクるからいいよ」


「一番の功労者だろ。傷も痛むはずだ」


「いちいちお節介なんだよ」


 鉤島の善意を拒否しながらゆっくりと歩き出す。……と。


「あのっ! ヤエカさん!」


 後部座席からレオが飛び出し、ヤエカを止めた。


「あの……ありがとうございました!」


 真っ直ぐなレオの言葉に、照れくさそうに頬をかく。


「……いいよ、別に」


「それで、あの……」


 もごもごと言い辛そうにしながら。


「また、会えますか?」


 申し訳なさそうにお願いをする。


 ヤエカは若干胸の鼓動が早まり、頬を赤らめ。


「うん……うちの店に来なよ。コーヒーご馳走したげる」


 そう言って、手を振りその場を去った。





最後まで読んで頂き誠に有難うございます。

次話で最終話となりますので、つたない文章ではありますが読んで頂けると幸いです。


初めて書いたシリーズものも、ようやく完結する事が出来ます。

…………ここまで書いておいてなんですが、正直泣くほど書き辛いジャンルでした。

ふざけたい気持ちをグッと堪え、作品の雰囲気に合わせてコメディー要素を極力控えたつもりです。

浅慮浅学な自分ではこの程度が限界であり、おそらくお目汚しになった方もいらっしゃるかと思います。

ホント……無理にとは言いませんが、もし暇で暇でどうしようもない時は、片手間で次回も読んで頂ければと思います。

本当に有難うございました。

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