蟻の観察
「みてみな、これが女王蟻だよ」
父親は他の蟻より2回りほど大きな蟻を指差した。
その蟻は黒光りし、数百という大群を率いるのも納得の風格であった。
「お父さん、これ何て蟻の女王なの?」
息子は目を輝かせて言った。
「これはクロオオアリ。日本で最大の蟻でよくその辺の家の周りでも見られるやつだよ」
父親は得意そうに説明した。
蟻たちは父親が購入した、蟻の飼育キットの中で生活をしている。地上部分からいつも決まった時間に餌を与えられ、それを運び、餌を食べ、幼虫達の世話をする。
「クロオオアリはね、クロシジミっていう蝶々の幼虫を育てて、その幼虫からお返しに甘い蜜をもらって生活しているのもいるんだよ」
父親は息子のためにネットで覚えた付け焼き刃の知識を息子にひけらかした。
「すごい! 牧場で牛を育ててるみたい!」
息子はそれを聞き、より父親を尊敬し顔を輝かせた。しかし、その顔はすぐに疑問と憐れみの表情に変わった。
「ねぇ、蟻達はこんな狭いところで暮らしてて辛くないのかなぁ 」
蟻は横170㎜縦130㎜厚さ25㎜のケースの中ので暮らしている。そこに、砂が敷き詰められ、そこを掘るようにして蟻の巣は形成されている。
「...大丈夫だよ、蟻たちは外の世界を知らないし、ここが世界の全てと思ってるんだよ。だから狭いって感じることはないし、実際ちゃんと生活できてるだろ?」
息子の発言に少し戸惑ったが、それらしいことを言ってその場を誤魔化した。正直息子の発言も一理あると父親は思ったが、それでは蟻たちに酷いことをしているようなので誤魔化すしかなかった。
「そう..なのかな..」
息子はまだ疑念をぬぐい捨てられない様子だった。
「みてみな、これがニンゲンだよ」
蟹座青雲のどこかにある地球外生命体が我が子にそういった。
親子は白く球体の乗り物に乗り、地球上から36000㎞離れた場所からニンゲンを観察していた。
「お父さん、このニンゲンは何て種類?」
地球外生命体の息子は目と思われる部分を突き出した。
「これは黄色人種って種類だね、肌が少し黄色っぽいだろ? 他にも黒色人種、白色人種がいるんだよ」
父親は頭に接続される管から直接送り込まれる情報を然も自分が知ってたかのように話した。
「へぇー! すごいね! ニンゲンにも色んな種類があるんだね!」
息子は嬉しそうに目玉を飛び出させた。しかしその顔はすぐ疑問と憐れみの表情となった。
「ねぇ、ニンゲン達はこんな狭い星に暮らしてて辛くないのかなぁ」
「...大丈夫だよ、これはニンゲン育成キットで作った星で、ニンゲン達は自分達が何億年も前から存在してるって思ってるけど、実際は数年しか生きてないんだ。それでこの星から出たこともないし、外の世界を知らないし。ここが世界の全てだとおもってるんだよ。実際楽しそうに暮らしてるだろ?」
「そう...なのかな..」
息子はまだ疑念を捨てきれない様子だった。