頭痛がするのはヒロインのせいです!
私の名はレティシア=フルール、第一王子殿下の婚約者である。私には悩みがあった。というのも、第一王子殿下が、最近子爵令嬢と楽しそうに話しているのを見たからである。
ふうっとため息をつくと、長い金糸がキラキラと揺れる。お母様から受け継いだ豪奢な金髪と緑の瞳は私の誇りだった。なのに、とまたため息が溢れる。
何事かを話していた王子殿下と子爵令嬢ミディア=カールトン。彼の指が、彼女の桃色の髪をかすめるのを、私は見た。二人は楽しげに話をしている。
彼女は一体何を考えているのだろう。王子殿下だけではなく、複数の婚約者のいる男性に言い寄っているという噂を聞く。
私は遠巻きにそれを観察することにした。すると騎士団長の息子、然り、魔術師団長の息子、然り、学園長の息子まで、皆、頬を赤らめて、ミディアと話をしているのだ。
なんということだろう。早めに手を打たなくては。私は、痛む頭を抱え、とうとうミディアを呼び出して、お説教をすることにした。
「ミディアさん、ちょっとよろしくて?」
声をかけると、彼女はビクッと震えた。小動物をいじめているような気がするが、自分を叱咤する。__だめよ。ここで負けては何にもならないわ。
彼女を引き連れて裏庭に向かう。飛んできた好奇の視線は無視をした。
「ミディアさん。私の言いたいことがおわかり?」
そう言うと、彼女は下を向いた。
「レティシア様、とうとうバレてしまったのですね」
「私、困っておりますのよ?」
眉をひそめる。
「そんな、レティシア様を困らせるつもりでは」
彼女は弾かれたように顔を上げた。
彼女と真っ向から視線が交差する。彼女の目はすがるようだった。ううっと心が痛みつつも、ここで鬼にならなければと気を引き締める。
私たちはしばらく無言でじっと見つめ合っていた。
「レティシア! ミディア!」
第一王子、アルトルート様の声がする。
アルトルート様は、こちらに走ってきたようだった。
「レティシア、すまない。ミディア嬢を許してはくれないだろうか」
「アルトルート様……」
私は呆然としてしまった。殿下が、子爵令嬢をかばうなんて。それだけお心が私から離れて行ってしまったということなのか。
「私が悪かったんだ」
アルトルート様は告げる。私はショックで立ち直れそうもなかった。
__婚約を破棄されてしまう。
「わ、私が悪かったのですか? 私に可愛げがあったら、こんなことにはならなかったのでしょうか?」
涙は見せないつもりだったのに、あまりのことに、視界が潤むのを感じる。
「レティシア?」
「お二人の心はもう一つなのですね。私の入る余地もないくらいに。失礼いたしますわ」
走り去ろうとした時だった。
「待て! 誤解だ!」
アルトルート様は私の腕を掴んでいた。
違う、と彼は言った。
「何か誤解をしているな、レティシア。私たちの心を結びつけたのはお前だ。レティシア」
「この後に及んで私を責めるおつもりですか?」
心が張り裂けそうだった。なぜ、私のせいにされなくてはいけないのか。
「責めてなどいない。ただ、お前が__お前が美しすぎるからいけないんだ!」
「は?」
思わず淑女らしくなく口をポカーンと開けてしまった。ミディアの方を見ると、彼女は激しく頷いている。
「レティシア様」
彼女は、上気した頬で言った。
「私が、殿下とレティシア様のお美しさのお話で盛り上がってしまったことは謝罪いたしますわ。噂をされるのはお嫌でした?」
「噂? あの、お二人はその、どんな関係で……」
「「レティシア(様)を愛でる会」」
頭がクラクラとしてきた。
「では、あの婚約者のいる他の殿方と仲がよろしいのも」
「私、お美しい方々を見ると、語らずにおれませんの」
ミディアの瞳は輝いている。
思わず顔を手で覆い、空を仰ぐ。
「今すぐにおやめになることをおすすめいたしますわ。誤解を招いてらっしゃいますわよ?」
「誤解? 妬いてくれたのかい? レティシア」
アルトルート様の言葉に思わず頬を染めてしまう。
嬉しいよ。と彼は言った。
そして、その指を伸ばして、涙の跡の残るであろう目の縁をそっとたどった。
「殿下。眼福ですわ。お二人とも絵画のようです」
ミディアはこちらを感激したように見つめている。
私は、恥ずかしくなってプイッとそっぽを向いた。
「見世物ではありませんの」
先ほどまでとは別の意味で頭が痛かった。
このままにしてはおけない。この二人、いやミディアを放っておいたら私のように誤解をする犠牲者が出てしまう。
「アルトルート様、私、とても悲しかったですわ。ミディアさんと恋仲になって私のことなんてどうでもよくなってしまったのかと思いましたの」
なるべく瞳を潤ませ、上目遣いになるように見上げる。キャラじゃないとか言ってられない。今後のためだ。
「レティシア……」
「あんなに楽しそうなお顔、私には見せてくださらないのですもの」
しゅんとしてみせる。
「悪かった。今後は、そのようなことがないようにする。レティシアは、その、あまり表情が変わらないと思っていたが、そんな顔もできるんだな」
アルトルート様の顔は朱に染まっていた。
__勝った。
私が勝利を確信した時だった。
「レティシア様! 今日はありがとうございました。いろいろなお顔がみれて嬉しかったですわ。私、負けません。今度は、殿方ではなく、女性の方とお話しすればいいのですね?」
「ミディアさん?」
思わずうろたえ、引きつった顔をしてしまった。
「知っております? レティシア様を愛でる会は二人ではありませんのよ?」
「な、なんですって?」
「たーくさん、いるのですわ!」
私、諦めませんから、と言った彼女は最高の笑顔だった。
ヒューマンドラマで投稿するか迷いましたが、異世界(恋愛)にしています。タイトルのヒロインという言葉は内容のわかりやすさを優先してつけました。
→王子よりヒロインの方が出張っているのでヒューマンドラマにジャンルを変更いたしました。