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名前を呼ぶとき、僕たちは――  作者: 友菊
第一章 男子捕獲大作戦
3/4

2 『第二次・結果』

「じゃあ良い?勧誘ウィーク初日で入部してくれたから、明日以降のお話をします。」

「はい。勧誘するんですか?」

「それも含めてのお話、『男子捕獲大作戦』について話します。」

「なにそのアホ臭いネーミング。」

「そういう事言わない。」


 音楽室横の廊下で密談する天馬と日野。

 ここで天馬が入部するに至らしめた吹奏楽部考案の作戦内容が明かされる―――


「まずは天馬みたいにぶらぶらしてる男子を捕まえます。

 その時に話しかけるのは天馬ね。で、私がその後に色々押し込めるから天馬はそれを援護してね。おっけ?」

「はぁ。えっ、いや、――もしかして俺はその作戦に引っかかってたって事ですか?」

「ソダネー。」

「おい。」


 悪びれる事もない日野の態度。それに天馬は肩をすくめる。


「まぁいいじゃん。実際、損はないと思うよ。」

「そう思って入るって言いましたからね。」

「じゃ、いこっか。」


 先に歩き出す日野の横に天馬が遅れて並び、二人は生徒玄関へと向かう。


 南成高校は三棟を主として構成されており、音楽室は一番北側にあるC棟の最上階にある。そこから生徒玄関はA-B間の一階。距離としては少し遠い。


「意外と時間かかりますね。」

「だよねー。まぁ慣れるよ。多分。」


 階段を下りながら話をする中、『男子捕獲大作戦』の続きの話を聞いた。特に日野の持つ武器について。


「天馬が止めてる間にね、私が上目遣いでその男子見るから多分そこで大体は落ちるって聞いた。」

「自信持って言うなよ…。ってか聞いたって何だよ。」


 満面の笑みで天馬を見る日野だったが、正直そこまでされてしまうと落ちないはずがない。それほどまでに日野という人間は可愛い。


「天馬はドキッとした?」

「――さぁ。」

「おいおいー。」


 階段を下り終えると日野が煽ろうと肘を使って天馬をつついてくる。


「何してるんですか。早く勧誘行きましょう。」

「つれないなー。」


 今度は天馬が先に行き、日野がそれを追いかける。

 そこから数分後、生徒玄関に到着した。


「どうしますか?あんまり居ないみたいですけど。」

「いやいや、居るよ。ほら。」


 そう言って日野はある男子二人組を指さす。

 その方向を見たとき、天馬は自然と嫌な顔をしてしまった。


「あいつら、ですか。」

「そう。行ってこい!天馬!」


 日野に背中をバンと叩かれ、嫌々二人組の男子に近づいていく。逃げようと後ろを見れば日野の鋭い視線が目に飛び込む。八方塞がりの状況が完成してしまった。

 人違いの可能性を信じてゆっくりと近づき、何度も瞬きするがあの二人で間違いはない。そして天馬はゆっくりと口を開いた。


「よ。有田、高瀬。」

「どうした天馬。」


 その二人組の男子の背の高い眼鏡が有田、もう片方の背が低い方が高瀬。この二人は最初の席替えで天馬の前後になりそれなりに面識のある連中である。

 だから天馬は話しかけたくなかった。


「部活勧誘。お前ら部活決めたか?」

「いや、決めてねぇ。」

「それに同じく。お前は?」

「俺は、そう。吹奏楽部だ。もう入った。」

「吹部か!?へぇ。珍しい事も起きるもんだ。」

「って事はお前、俺らを勧誘しにきたのか?」

「ご明察。」


 頭の回転の速い有田の推理は見事に当たり、警戒態勢に入る二人。

 しかし、その警戒も無意味に終わる。

 何せ、あの人が来るのだから。


「てんまー!その二人は友達?」

「そうです。でどうしたんですか?日野先輩。」


 天馬と日野の会話中、有田と高瀬はこそこそと『ヤバい人が来た。そういやこの人吹奏楽じゃん。』といった具合の会話をしていた。

 もちろんそれは吹奏楽部員二人に聞こえており心なしか日野の顔が火照る。


「ちょうど一年生が二人も居るから勧誘。でどう二人とも、吹奏楽部は。」

「い、いやぁ。そこまで吹奏楽興味なくて…。すいません。」

「俺も興味ないですね。すいません。」


 先に口を開いた高瀬を日野がロックオンしたのを天馬は気づいた。

 恐らく、何かのきっかけで『アレ』をしてくる。


「そっかー。じゃあ一つ聞いてもいい?えっと…?」

「たっ、高瀬です。」

「高瀬君、部活動紹介の時の演奏はどうだった?」


 天馬に向けた事のある上目遣いで高瀬を見る日野。

 それに高瀬は一歩引いた。その様子からして明らかに動揺している。


「い、いや、良かったです。テンション上がりました。はい。」

「そっかー!良かった。ありがと。」


 そこで日野は右手を出し、縦に揺らす。

 その二度目の光景は日野が持つ最大の武器である『握手ノーハンド・ノーライフ』だという事を後から知った。


 もちろんそれを知らされた時、天馬は動揺し、日野が意外と計算高い事に恐怖した。しかし、それは他の二年生部員からの入れ知恵という事も聞き、安堵した。

 それほどまでに強力な武器をここで出したのである。


「握手…ですか?」

「うん。ありがとね。」


 明らかに動揺した様な態度の高瀬はズボンで手汗を雑に拭き握手をする。

 それを羨ましそうに見ている有田の顔を天馬はしっかりと見た。――あいつ、やっべぇな。


「でそっちの…。」

「あ、有田です。どうも。」

「君も演奏はどう思った?」

「よ、良かったと思います。ロック調で…。」

「そっかー!」


 再びここで右手を出す日野。

 あの武器が求めていた子羊の元へと再臨する。

 口元がガッツリにやけている有田の顔をまた天馬はしっかりと見た。――うわぁ。


「それでさ、また聞く感じになっちゃうんだけど、どうかな。吹奏楽部。」


 これが『男子捕獲大作戦』の最終段階、落とした野郎どもをしっかりと拾うという何とも言えない終わりである。


「でも吹奏楽には…。」

「俺もちょっと…。」

「そっかー、ごめんね。じゃバイバーイ。天馬行こっか。」

「あっはい。」


 こうして初日の『男子捕獲大作戦』は失敗に終わった。二人はかなり悩んだ末に出した答えの様で特に有田に至っては未練タラタラに終わった様子だった。

 そんな中、天馬は二人にじゃあな、と言い残して日野に付いていく。


「良かったんですか?無理やり連れて行かなくても。」

「まぁいいんじゃない?まだ何日かあるし。」

「そうですね。」


 天馬と日野はまた校舎内をぶらぶらする。


 しかしその日以降男子は引っかかる事無く、女子二〇名の入部に対して男子は天馬一人という結果に終わった。

 その結果を受けて日野は部員全員の前でこう言った。


「そういう事もあるわな!」


 堂々の宣言に誰もが言葉を失った。

 それが今年度吹奏楽部部長、日野なのである。

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