プロローグ
「ねぇねぇ、吹奏楽入らない?楽しいよ!」
「い、いや、楽器とかは…。」
「大丈夫、大丈夫!私も高校入ってから楽器始めたからさ。」
「でも、ちょっと…。」
校舎の一角で新入生の天馬はこの状況からどうやって抜け出すべきが必死に考えていた。
それも、太陽みたいに明るい人が自分の目の前に居るからだ。
彼女は薄い唇に人差し指を当て、上目遣いでじっと天馬を見る。
そんなあざとい動きが天馬の心をドキドキさせる。それなりに女子とは喋った事がある天馬だが、こんなに押してくるタイプは初めてである。
「ね、見てみるだけだから!」
「――じゃ、じゃあ見るだけで…。」
「よっしゃ!」
そんな彼女に折れてしまった天馬の言葉だったが彼女は左腕で大きくガッツポーズを決め、右手を天馬の前に出してきた
太陽のような笑みを天馬に向けながら言葉を紡ぐ。
「私、日野って言います。宜しくね!えっと…。」
「あ、天馬です。」
「よし、天馬!宜しく!」
彼女の出した手は握手を求めており何度も縦に揺れている。
渋々、彼女の――日野の手を取る。
その手は柔らかく、指は細い。文字通り華奢な手であった。
「よ、よろしくお願いします…。」
「――行くぞ!天馬!」
日野は繋がれた手を乱暴に引っ張り、天馬をどこかへ連れて行こうとする。
風を切り、校舎を駆ける。
階段を駆けあがり、一つの教室に到着。
そして、日野が解き放った扉から―――。




