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SKのお話

仲間を盗まれたので取り返しに行く話

作者: 紅藤


「おい、そこの剣士!」


 と呼び止められ、当の本人が気にせず歩いてしまったのは、誰のせいか。

 斧戦士、パーティー内ではそう呼ばれることの多い魔法剣士は、呼び掛けを無視して捕まった。

 牢屋に捕らえられた仲間を助けに、スカイアドベンチャーは向かう。


「ピッキング……アイテムないからできないか」


 斧戦士はシーフだったこともあるが、アイテムなしではさすがに攻略できない。




 斧戦士が捕らえられて一週間。スカイアドベンチャーはようやくのっそり動き出した。

 というのも、この一週間が過ぎるまで斧戦士の消息が知れなかったからだ。斧戦士はたいへんな気分屋で、この間通った町を不幸の渦に陥れていたり、特定の宿屋を潰そうと働きかけていたり、と、一ヶ月留守にしてもおかしくない人物なのだ。

 そのため、誰も斧戦士の行方を知らず、知らなくても問題ない状態だったのだが、ある日。デジャヴも甚だしい事件が目の前で起き、その場でこうも言い捨てられたのなら、彼らも黙っていられなかった。


「斧を持った剣士の方は助けないんだな」

「薄情ものめ!」

「なんだって!?」

「どういう意味だ……いや、聞けばいいか」

「ラジャー。ボクに任せて」


 昼間から聞くに耐えない男の悲鳴が立ち上ぼり、尋問を終えたアサシンと魔法使いは清々しい顔をしていた。


「斧戦士さんを助けなきゃ」

「もちろん助けるぜ」

「おっ、舟長がやる気だ」


 舟長は獰猛に笑う。

 守銭奴状態だ。こうなったら、お金のことではてこでも動かない。

 それもそのはず、実はここの牢屋、技量が伴っていればこじ開けてもいいことになっている。つまり、数や質に物を言わせて強引に救出してもいいということだ。

 実際にそれを行うと厳しい戦いと、全員拘束エンドの可能性がちらついてくるわけだが、お金を使わなくてもいいという点で非常にメリットが高い。

 スカイアドベンチャーは当然、けちんぼな舟長がいるので、そっちを選んだ。

 その結果がこれである。


「斧戦士さん、助けに来たよ!」

「おお、魔法使いさん、一週間ぶり」

「なに交友を温めてんだ、カギを開けるぞ、カギを」

「はい、ピッキングツール」

「ガッチャン、開いた」

「そんな早く開くか!」


 舟長がガチャガチャ鍵と格闘している間、なり続けるアラーム音。実は忍び込んだはいいものの、魔法使いのドジで道半ばにして見つかってしまったのだ。

 幸い、四人は捕まらずに済んだのだが、代わりに施設側の警戒心を最大にあげてしまったので、こんな有り様だ。

 刑務所側も馬鹿ではないから、看守役の男たちが倒れているのを見てなにもせずにはいられなかったのだろう。


「そういえば、おまえ、斧は!? それもとられたのか!?」

「斧? 斧はここにあるよ」

「あるのかいッ」

「それでカギを壊せないの?」

「それは邪道だろ」

「なら仕方ない」

「おい、ちょっと待て」


 そんな茶番をのんびりしているものだから、追加の看守と衛兵がやってきた。斧戦士と舟長以外が目を爛々と光らせ対峙する。


「待て!」

「誰が待つか、死ねぃ!」

「殺すのは御法度だから倒そうね」

「うちの魔法使いさんはまったく過激で困るぜ」

「そういう問題か!」


 突っ込みを衛兵さんにしてもらうという手抜きコミュニケーション。

 魔法使いが右手を振り上げ、魔法を唱え始めた。阻止しようと魔法使いに襲いかかる四人の敵。しかし攻撃は剣士によって防がれる。仲間を守る力、守護のスキル効果だ。


「ではこの攻撃で倒れてもらうぞ。エナジーブラスト!」


 魔法使いが溜めていた白いもやのようなものが、衛兵たちに一直線。そこで無属性の爆発が起きる。四人は倒れるしかない。

 外傷はまったく発生しない、クリーンでノンバイオレンスな魔法だ。

 アサシンは手持ちぶさたそうにしていたが、敵が全員倒れたのを見て表情を和らげる。


「やったね」

「倒した! 舟長の方はどう!?」

「こっちも片付いたぞ」

「斧戦士、戦えるか?」

「余裕です余裕」

「ホントに? 一週間軟禁状態だったんでしょ? 普通は身体の問題から戦えないと思うんだけど」

「そうだよ。ちゃんとご飯食べた?」

「ご飯は一週間ぐらい抜いてもへーきだって魔法使いさんに聞いてたので、平気です」

「いや、動けねーよ!」

「おれをなんだと心得る!」

「えっ、うちの斧戦士?」

「そういうことです。さあ行こう」


 大丈夫なんだか大丈夫じゃないんだかよく分からない会話をして、斧戦士はひとりでに立ち上がり、自力で牢の門をくぐった。それはとても絶食中の男性とは思えない力強い動きで、心配していたアサシンを安心させた。ツンデレ美味しいです。

 あと、一週間もご飯を抜くのはまったく平気なことではないので、誰も真似しないように。三日でもやばい。


「ここまで来たんだ、せっかくだから正面から帰らないか?」


 舟長が言った。

 正気を失ったかのような言葉である。


「また悪名が上がるよ」

「もとよりそのつもりだ。上がってくれなきゃ困る」

「またまた悪ぶっちゃって」

「そういうお年頃なんだろう、たぶん」

「ちげーよ、攻略的にだ!」


 悪名が上がると、如何にも怪しそうな依頼でも受けられるようになるのだ。ただし結果は自己責任で。

 悪い話には高い報酬が付き物、ということで、またまた守銭奴を発動させる舟長。決して若者特有の、いい人に見られたくない衝動とは関係ない。

 誰も止めなかったので、当然のごとく正面突破に決定した今後の展開。さて、吉とでるか凶とでるか。


「階段をのぼって地上に出よう!」

「まあ、牢屋は地下だと相場が決まってるけどな」

「もう、魔法使いちゃんたら順路を忘れちゃったの? 忍び込むときは上からだったけど、玄関はこのまま一階にあるんだよ」

「説明乙」

「おまえ……いつも通りで何よりだぜ」


 調子が出てきた斧戦士。剣士にたしなめられるかと思いきや、この対応。慣れてる人は違うね。

 牢屋の出口までは、敵を倒しきってしまったせいか、はたまた扉の向こう側で待機しているせいか、誰一人敵がやって来なかった。ゲームでもあるまいし、敵が無限に沸いてくる訳がないのだが、少し不気味だった。

 さっきの戦闘で失ったHPとSPを補充し、扉に張り付くアサシン。


「なにか聞こえる?」

「分からない。でも、やっぱりここからは敵が出るみたいだよ」

「確かに、足音は聞こえるな」


 すると、静かに話を聞いていた斧戦士がすっと立ち上がり、アサシンに近付いた。斧を構えながらである。こわい。


「どうしたの?」

「すこし向こうにいる連中を驚かしてやろうと思ってな。そこの扉をおれが斧で壊すから、そっから突入するってのはどうだ?」

「壊せるのか? これ金属製だぞ」

「やってみれば分かる。壊せなかったら、魔法使いさんにも手伝ってもらおう。それなら開くだろ」


 斧戦士も魔法使いも、自分のステータスの高さには自信がある。たとえ今、本職ジョブでなくて全力が出せないとしても、この金属製の扉ぐらいは楽々破壊できるというのだ。


「開くっていうかバラバラになるっていうか。まあいいよ。普通にガチャッと開けるのもなんか変だし」

「ガチャッとも悪くないがな。意表を突ける」

「弱点を着けーぃ!」

「なにをいってるのだね、キミは」


 斧戦士が斧を構える。アサシンが退いたことで扉の前はがら空きだ。斧が降り上がり、真っ直ぐに下ろす。木屑や破片が宙に舞い、枠の向こう側でやや青ざめているような顔が見えた。

 待機していた人々だ。その中に、見たことある顔もあって。舟長と彼が叫ぶのは同時だった。


「あいつ、昼間に見た顔だ!」

「おい、気を付けろ! あのシーフ魔法を使うぞ!」

「シーフ? 舟長昼間に魔法使ったっけ」

「バカ、おまえのことだ!」


 いつでも魔術師なつもりの魔法使いだったが、今のビジュアルはシーフ。素早さを伸ばすために盗賊の修行をしているのだ。

 数時間前にデジャヴにも程がある内容で、牢屋に連行されそうになっていた人物とは思えない発言で、舟長は深刻に脳ミソの劣化を懸念した。


「あと、そっちの騎士は気絶攻撃を行うぞ、気を付けろ!」

「遅いよ」

「騎士なのに即死攻撃をマスターしてやがるのか!」

「不良騎士だ! 不良騎士!」

「不良で構わないよ。ボクは冒険者だし」


 騎士のくせに即死攻撃が使える、というのは間違いだ。即死攻撃を使えるアサシンが騎士の修行をしているといった方が正しい。

 冒険者は好きにジョブを変えることができる。とは言うものの、通常それの意味は最初だけで、すっぴんからどのジョブを選ぶかという点だけである。

 本来冒険者はこれ、と決めたジョブ一筋で人生を生きるべきであるらしい。が、スカイアドベンチャーでは邪道的な転職が流行っている。それはジョブをマスターすればするほど強くなるという理念からだ。


「あの僧侶、いま味方を庇ったぞ!」

「普段は剣士やってるからな」

「剣士でもおかしいだろ。いや剣を持った騎士ということか……?」

「こっちの剣士は斧を持ってやがる!」

「一週間の恨み、いま力に変えて!」

「無視したのが悪いんだろ!!」


 僧侶な剣士と剣士な斧戦士にもそれぞれクレームが寄せられる。

 守護スキルを使っただけでこれである。これでもし、魔法使い以外の四人が守護スキルをマスターしていると聞いたらどうするのだろうか。頭から煙が出るかもしれない。

 斧戦士は斧戦士で、無視しなかったらどうなっていたのか。非常に聞きたいところだが、斧戦士がバーサーカーと化しているのでそれは難しい。


「誰だ、錠を開けたのは! おまえか、魔法シーフめ!」

「わたしじゃないよ! 舟長がピッキングで開けたの!」

「おま、そういうことを安易にバラすなって……」

「レンジャーが盗みを!? ……まあ不思議じゃないか」

「この流れでオレだけおかしいだろ!」


 舟長激おこ。

 天丼するか外すか二者択一だったから、仕方ない。50%を当てられなかったとして一生後悔するんだな!

 さて、そんな舟長は置いといて。

 戦況は圧倒的スカイアドベンチャーの優勢である。SKはおつかいもできる戦闘パーティーなので、多少技を極めたぐらいの衛兵に負けるわけがないのだ。


「とか言ってると急に強いやつが出てくるフラーグ!」

「そうか、先生を呼べば!」

「先生、今日休みです」

「マジで!?」

「誰のセリフかと思ったらおまえか、似非シーフ!」

「そういうことは舟長に言ってあげて!」

「どういう意味だテメー!」


 魔法使いさんの希望むなしく、特に強敵との戦いなしに制圧完了。

 スカイアドベンチャーは普通に玄関から出ていった。

 斧戦士は最後に誰かを踏みつけ、他の四人は倒れている誰かを飛び越え。

 無事、地上に帰還した。




「ふー。帰ってこれたー!」

「当たり前だろ、あと斧戦士はこれから斧しまっとけ」

「これのせいで怪しまれたのか。そうだな、しまっとく。盗まれたら舟長が鬱陶しいし」

「それ言う必要あった?」

「普段金を根こそぎ奪ってるやつから、お金を貰えたんだ、舟長ウハウハだろ。大丈夫だ」

「ウハウハほどじゃないけど、正直うれしい」


 捕らえられた仲間をなんとか取り返したSK。

 斧戦士のセリフに負けず、ときめく舟長。

 転職を繰り返して強くなる彼らの明日はどっちだ!

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