おでんのけむり
「で、お前誰に告ったんだっけ?」
湯気が立ちこもるなかで来末勇摩が箸を空にさまよわせたまま聞いてきた
「竹本 聖」
私はその件についてあまり触れて欲しくなかっただけにボソッと答えた
勇摩の反応を物憂いげに想像しながら
「竹本!?うわーお前身の程知らずだなぁ、スゲーモテるじゃんあいつ」
食事中にもかかわらず大振りに驚く勇摩
「うっさいなー」
キッと私は勇摩を睨みつける
言われると思ってたけど普通ここまで言うか?
「自信過剰」
「だまれ!」
空いていた方の手で私は勇摩を叩く
「イテ!こぼれるだろ・・おでん」
彼は、肩の痛みよりおでんの方に意識が行っているようだった
私、宮田彩奈はそんな彼の様子を見て憮然と食事を再開する
ここは私の友達の角岸ヤエの両親が出している屋台で(おでんしかでねぇ)
ヤエも時々お手伝いをしているので、学校帰りにちょくちょく勇摩と来ていた
特に勇摩は、私以上にここに来るのに意欲的だった
その理由は
「ヤエー!今日もカワイイー」
勇摩は身を乗り出してさえばしを持ちおでんの面倒を見ているヤエに手を伸ばした
そうこいつはヤエにご執心
90%はヤエのためだけにここに来ている
こいつは愛情表現だけが周囲と飛びぬけている
私がそう思うのはヤエは勇摩の彼女じゃないからだ
たしか勇摩の親父はどこぞの外国人で
その人が影響していると風の噂で聞いた
本当か?っと私は最初に疑ったがこの前勇摩の家に行ったとき
そんな考えは消滅した
とにかくすごい
小さい頃からあれを眺め続けた勇摩がかわいそうになるほどだった
「何て言われたの?」
勇摩の手を顔色一つ変えずかわしヤエは私に聞いた
「好きなタイプじゃないって言われた」
言うと、あの苦々しい記憶がよみがえってくる
私は同級の竹本聖に恋をした(笑うなよ)
私が恋する中で珍しく誠実で優しい感じの人
今まで恋をした数は未特定多数
でも今回はけっこうマジだった
「へぇー竹本もそんな事言うのか・・意外だなぁ・・」
性格良さそうにと勇摩は後で呟き箸を皿に向わせた
私は勇摩の箸によってかち割られていく大根を見つめた
真っ二つなそれはまるで私の心の様
・・・なんちゃて
「本当感心するわー、よくもそんな勇気あったわねぇ」
手馴れた手付きで鍋のなかのおでんの量を調節しながらヤエは言う
サバサバした感じの性格は男女問わずウケてるらしくヤエは皆に慕われている
でもやっぱりヤエの一番のファンは私の隣に座るこのバカだ
「お前今まで何回玉砕してんの?学習能力ねーな」
バカじゃなくてクソだこいつ
「だって、言わないで終わるのもヤだし」
気持ち引きずったまま卒業とかありえないし
「自己満足で告んなって、はた迷惑、はた迷惑
そういうの俺達の居ない世界でやってくんない?」
「うわーウザ・・」
こいつは私に関してはかなり毒舌だ
昔からの付き合いだから慣れまくったけど
私は糸こんにゃくに噛み付いた
なんの抵抗も無く引きちぎられるこんにゃくども
これが勇摩ならいいのに・・・
「そういえばまだ彩奈の両親帰ってきてないんだっけ?」
ヤエは湯気で上気した肌を濡れたハンカチで冷やす
フリーダムな彼女は時々ワイルドなところがある
案の定、隣で勇摩がみとれてる
「そう、結婚記念日とかなんとかで、『お前はついてくんな!』とか言われてさ
海外まで飛んでいちゃって、一人っ子の私には過酷な状況」
一言でまとめれば両親は私を家に置き去りにして旅行行ってます
一ヶ月ほどで帰ってくる予定
「あんま、意味分からないけどとにかく大変そうだね」
ヤエは哀れみの目で私を見る
「ヤエ優しいー」
勇摩がまたヤエの職務妨害を始めた
「勇摩うるさい〜」
ヤエは本当にやかましそうに眉を寄せて応戦する
私はそんな2人のやり取りを楽しみながらも
微かに点滅する星と湯気の混ざり合う世界に視線を投げた
彩奈・ヤエ・勇摩はとある高校の二年生です♪