9,10
E日
あの日……、あの恐ろしい日からしばらくの時が経ちました。ありとあらゆることが目まぐるしく変わっていってしまって、日記を書く暇もなかった。やっと時間ができたので、ここに今までのことをまとめておきます。あの日、私の家は火事にあった。お父さまとお母さまは天に召されました。あの時おばあさまが私をあの家から救い出してくれなかったら、私も今ごろはお空の上にいたでしょう。おばあさま、あの細いお体のどこにそんな力を秘めていたのかしら。普段ちっとも慌てた素振りなんて見せないおばあさまが、私を守るためにあんなに必死になられて……。おばあさまいわく、これから私は〝来たるべき時〟が来るまで、この騒がしい……いえ、にぎやかな町で暮らさなくてはいけないらしい。私、がんばるわ。お父さまとお母さま、そしておばあさまのために。そして、それが〝稀代の巫女〟である私に課せられた使命なら……!
F日
この小さな部屋での生活にも、宿屋でのお仕事にも、やっと慣れてきた気がします。それはそうと、最近気がかりなことがあるの。おばあさまがずっと、部屋の窓から通りを見ているんです。それもとびきり怖い目で。おばあさまは目が見えないはずなのに、その時ははっきりとおばあさまが通りを〝見ている〟って感じられるんです。私がどうかされたのですかって訊くと「何でもありませんよ」ってほほ笑まれるんだけれど、その笑みはどこか辛そうで……。今の私はおばあさまに何をしてあげられるかしら。おばあさまの望むことならば、私は何だってやって差し上げよう。




