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プロローグ

・基本ラブコメです。

・異星人を題材にしたSFですが、その部分がメインではないです。

・バトル等の要素は低いです。

「こ、この香りは何だ!?」


異星の金髪美女、ピョン・シュルはマンションの玄関から出るなり周りを警戒している。


「香り? ん……あ、金木犀だね。花の香りだよ」


周りに漂っていたのは金木犀の香りだ。

マンションの4階まで匂っているのに気が付かなかった。


「この香りは毒物ではないのか? このような甘い強烈な香りは毒物である場合が……」


「大丈夫だよ。えっとね、調べるより実際近寄った方がいいよ」


俺が住むマンションの部屋から出た廊下からは、瓦屋根の町並みが見下ろせる。

ピョン・シュルは景色を見て俺の腕にしがみつく。


「ピョ、ピョン……?」


「す、すまない! こういう行為は破廉恥なのは分かっているだが……立っているのが……」


「い、いや腕に掴まるぐらいは破廉恥なんてことはないよ! 初めての地球で不安なだけでしょ?」


「う、うむ……す、すまない……しかし腕に掴まるのも心臓に悪いな……」


ピョン・シュルは俺の腕に掴まったまま瓦屋根が続く町並みを見渡す。


「地球の建築は芸術品だ……不定形で乱雑で、なおかつ美意識に貫かれている。地球人はすごいな……」


ピョン・シュルとマンションの外の道に出る。

その間も俺の腕にぎゅうぎゅうと胸を押し付けてくる。

初めての地球に不安があるだけで、胸を押し付けている意識は全くないようだ。

柔らかい。大きい。家の石鹸とはちょっと違ういい香りがする。

胸のことしか考えられない。


「あ、こ、これだよ金木犀。毒は無いから安心して」


マンションのすぐ下の植え込みに2メートル程の金木犀の木が植えられていた。

近寄ると、より一層甘い香りが強くなる。


「これが地球の植物か! これは花なのか! なんという愛らしい……美しい! こんなにまで香りが……」


ピョン・シュルが覗き込むと、俺の胸付近で金色の髪が揺れ、光沢がキラキラと移動する。

俺は金木犀ではなく、ゲームのキャラのように美しいピョン・シュルばかりを見てしまう。

ピョン・シュルは何をしても絵になる。

金木犀の香りとピョン・シュルのイメージが記憶と結びつき、金木犀の花の香りを匂うたびに今日のことを思い出すだろう。

ピョン・シュルが、もっと金木犀に顔を近寄づけて香りを吸い込もうとする。


「おっ、おっと……」


「うっ……ケ、ケンジ……」


腕を絡めたままピョン・シュルが金木犀に顔を近づけ、引かれた俺は姿勢が崩れてしまう。

咄嗟に掴まれていない方の手でピョン・シュルの手に触れてしまう。


「私から腕を借りた身だが……その……困ってしまうのだ……」


「ご、ごめん! 胸が当たってるから避けようと思って……」


「何っ!? それはさぞ迷惑だったであろう……私の胸など」


「ピョンならいつだって歓迎だよ」


「くっ……!」


俺の言葉を聞いたピョン・シュルは腕から手を離して大げさに飛び退った。

俺は胸をぎゅうぎゅう押し付けられて普段よりちょっとおかしい発言をしてしまったかもしれない。


「そのような絵になるような顔で笑うなっ! それ以上精神攻撃されたら……」


「そんなつもりはなかったけど……」


しかし、俺の顔は絵になるらしい。一体何の絵なんだ。

ピョン・シュルは紅潮した顔でギリギリと歯噛みしている。

怒った顔ではないので羞恥に耐えているというところみたいだ。


「腕はもう借りん……」


「いや……その……ごめん……俺は少し嬉しかったんだけどな……」


「うっ! またそのような顔で……卑怯者め……ではいいな! これは断じて私が触れたいからではないぞ!」


ピョン・シュルはまた俺に腕輪絡めてくる。

軍人であるピョン・シュルなら怖い物なんて無いかと思っていたが、地球全てが初体験なんだからそうはいかないみたいだ。


「これは私からの要求ではない! で、では……よろしく頼む……」


「うん。出来る限り親しくなるんだからこれぐらいはね……」


「うう……親しく……平常心を保たなくては……」


これからのことを思うとどうなることやら。

しかし初志貫徹として攻めでいくのだ。



                  ◇




ピョン・シュルと出会う前、名前もまだ知らなかった一ヶ月前、地球で初めて『異星人』の映像が公開された。


俺はその時、会社から電車で自宅に帰る途中だったから気が付かなかったが、車内がざわついているのには気が付いていた。

自宅に帰ってテレビをつけ、ニュースで流される異星人映像を見てしばらく呆然と立ち尽くしていた。


「異星人……? ってか人間じゃないか……」


俺の名前は山田・ケンジ。

年齢は25歳。身長は175センチ、体重は65キロ。

日本の成人男性としてはおおよそ平均値だと思う。

顔もそこそこ平均的ぐらいだと思う。

大学卒業後、中小企業に就職し、営業職をしている。

彼女無しで、全体的にごく平均的な男といえると思う。


俺は日々得意先を回ったり、自社の商品を売り込んだりして夜5時には会社に戻って7時には一人暮らしのマンションに帰宅する。

仕事はそこそこやりがいがあって嫌いではない。


趣味は動植物が好きなので野山を散策することだ。

土日にちょっと出かけて草花を見られたら幸せだ。

友人は学生時代からの友人、末延という奴が一人。


この、ごく平均的な日本人成人男子の俺は、世界の出来事としてニュースの異星人映像をただ傍観していた。

しかし一般人であるからこそ、異星人と関わっていくことになったのだ。


異星からの最初に送られてきたというメッセージ映像には2人の女性と1人の男性が映っていた。

驚くことに3人の異星人は地球人とほぼ同じ姿をしていた。

つまり姿形が人間と同じなのである。

真っ黒で口が前に飛び出たり、ゴキブリやタコみたいな形ではなかった。


俺は真ん中の男性を挟むように両脇で立っている2人の女性異星人の美しさに釘付けになった。

ただ美しいのではなく、超絶に美しかった。


2人の女性異星人は、白っぽいセーラーの水兵のようなワンピースを着ていた。

どういう立場なのかは分からないが、随分格式があるように見える服だ。

左の女性は金髪ロング、右の女性は肩ぐらいの長さのピンクのツインテール髪。


不透明なガラスのような壁の前に立ち、丈の短いワンピースから太ももが少し見える程度の引いたカメラアングルと、時折バストアップぐらいのアングルとを交えた映像だ。


空気の流れがあるのか、女性2人の髪が風に流され、空気を含んでふわりと揺れる。

その度に、艶やかな金とピンクの金属光沢のハイライトがきらめく。


特に金髪の異星人女性は神々しいばかりに美しかった。

反射してキラキラ光る空色の瞳。

髪の毛と同じ金色で長いまつげ。

背筋がピンと伸びて姿勢は正しく、鋭く切れ長な目には強い意志と憂いも感じさせ、神秘的な雰囲気を漂わせていた。

知的で強い意志を感じさせ上品さがあって、なおかつ女性らしい柔らかさも兼ね備えた超絶美女。


「綺麗だ……」


仕事柄、受付嬢みたいな人達と話すことが多かったから、そこそこ美人は見てきた。

しかしこれほど惹かれる女性は見たことがない。

俺は異星人女性に魅了され、画面に釘付けになっている。


「我々は地球から15万光年離れた銀河にあるシンメトリー星から、地球の皆さんと友好的な関係を築くためにメッセージを送っています」


「日本語!? なんで……? 吹き替えじゃないのか? どうなってるんだ……」


俺はテレビの前で突っ立ったまま一人で画面に向かってつぶやく。


シンメトリーという星からのメッセージ映像は、各国用に翻訳されたものではなかった。

録画した映像でも全人類が自分の言語として聞こえるらしい。

俺には細かいニュアンス等のズレもなく日本語に聞こえた。

しかも、その映像を見た者全てが多言語を理解できるマルチリンガルになってしまった。

シンメトリー語だけは自分の言語として聞こえるが、知らない国の言葉もある程度は元々知っていたように理解できてしまえるようになっていたのだ。


翌日、それはシンメトリーの技術であり、過干渉であったことの謝罪がシンメトリーから告げられ、シンメトリー言語の理解以外は元通りになった。

突然の超美形異星人の存在と、マルチリンガル事件だけで世界中はパニックに状態になった。


シンメトリーはワームホールから別の星へ行く技術が使われていたらしい。

友好的な知的生命体との接触はほとんど無かったが、シンメトリー人とほぽ同じ知的生命体が住む星、地球が発見される。

まだ、実証はされていないが、地球人とシンメトリー人は、身体の構造がほぼ同じで、子供を作ることも可能らしい。

しかし、子作りの手段はどうしているんだとかは気になるところではあるが。

シンメトリーからの接触の意図としては『友好的な相互交流』をすることらしい。


シンメトリー人が公の場所に現れないまま、地球人とシンメトリー人が接触してテストを行うことが発表される。

地球人とシンメトリー人200人同士が、友人となって交流する『交流テスト』がシンメトリー主導で行われる。


お互いが友人としての交流ができるかの検証と、地球の科学力では理解できない事象があり、それをシンメトリー側が検証する。

また、その『交流テスト』で地球人には決して危害は与えないことをシンメトリーは約束しているという。

人権団体等の反対運動はあったが、全く『交流テスト』の妨害はできていないし、世論は好意的だった。


『交流テスト』はシンメトリー側からの要望で多種多様な人種や専門家が選ばれる。

世間で注目を集めたのが『交流テスト』の一般人代表があり、そこに志願枠が設けられたことだった。

この、シンメトリー主導で、地球の管理下では行われない不透明な『交流テスト』の一般人代表志願枠に、志願が殺到した。


志願者には、一攫千金、好奇心、様々な思惑があっただろう。

かく言う俺も、様々な思惑がある者の一人。

つまりはその『交流テスト』の一般人代表に志願したのだ。

その思惑というか理由は、単純に一目惚れ。


最初にテレビで見た、金髪の美人にどうしても会ってみたくなった。

あっけにとられるほどに美しいあの金髪美人を間近で見てみたい。

我ながら何という単純でアホらしい動機だろうかと思う。


『交流テスト』が異星人代表みたいな立場になっているかもしれない彼女とできるとまでは望んでいない。

しかし、彼女と間近で話せる機会があるかもしれない。

ついでにシンメトリーの植物も見せてもらえないか、とかも。


そして、志願して数日、幸運にも俺は『交流テスト』対象者に選ばれた。


『交流テスト』が行われる前日に末延を居酒屋に呼び出して、志願して採用になったことを伝えた。

頭から食われてしまうかもしれないから辞退するようにと説得された。

金髪美人に会いたいと正直に言ったら、バカじゃないかとさんざん笑われた後、本気で心配して泣かれた。

笑って「泣くなよー」と返したが、こいつは本気で俺のことを心配してくれているんだと分かってちょっと感動した。

ただ、末延が「俺ならピンク髪の方だ」と言っていたことを付け加えておく。

テストの辞退はいつでもできるということになっているが、辞退する気はない。


酔いつぶれた末延をタクシーに乗せて送ってからしばらく夜道を一人で歩いて帰った。

線路沿いに生えていたススキが月明かりに照らされてサラサラと揺れている。

夜風が俺をすり抜けて心地いい。

揺れるススキが異星人の金髪を思い起こさせた。


「この月明かりのススキも見納めかもしれないなぁ……」


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