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いつも一緒  作者: 夏帆
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日常

新連載です。だいぶ前に書いてあったものを投稿しました。

物語のスタートからヒロインに殴られる主人公って、どうかと思う。カッコ悪いとかそういう事ではなくて、なんとなく有り得ねぇって感じで。現実にそんな事があったら凄い。・・・なんて考えながら、学校の自販機で買った紙コップに俺は口を付けようとする。鼻を擽るブラックコーヒーの香ばしい匂い。初秋とはいえ少し肌寒い日にはその匂いだけで温かくなるような気がする。平和な一日が今日も終わ・・・

「愁のバカ!」

その叫び声と共に、俺の身体は思い切り前につんのめる。同時に、手に持っていた紙コップが勢いよく上下に揺れた。買ったばかりの熱いコーヒーが前髪と胸にかかって、俺は説明するまでもなく、茶色の液体を滴らせながら、熱さに飛び上った。

「おわっと!あち、あち、あつ・・・何なんだよ、夏実。何か俺に恨みでもあるのか?」

「大ありよ!何これは」

振り返れば、肩口までの茶色がかったサラサラヘアーの女の子が、仁王立ちになっていた。切れ長だが割合大きめの目に、筋の通った鼻、紅い唇、極めつけは透き通る白い肌。世間一般では美人に属されるであろう部類の彼女は、名前を古暮夏実という。中学からの同級生で、高校に入った今はクラスメイトだ。初めて出会った時、天使だと思った彼女だが、まさかこんなに男勝りな性格だとは思っていなかった。見かけ倒しも良い所である。というのは本人には内緒。言ったら一生、口を聞いてもらえないかもしれない。そして、そんな夏実を好きだという事も秘密だ。何故って・・・。

「どうしてまだ、こんなにプリントが残っているのよ!今日は私、急ぎの用があるから早くしてって言ったじゃないの」

バン!

夏実の手が机を叩く。小さな振動が起きて、机の上のプリントが軽く踊った。俺はそのプリントをじいっと見つめる。確かに、それは俺が安請け合いした代物であって・・・けれど、それが面倒な物だとは知らなくて。

「だってさ、『社会福祉ボランティアに関する、バザーの企画書』なんて、すぐに書ける訳ないじゃん。そもそも俺、バザーとか何やるのか知らないし」

「そんなの、愁が関口先輩の仕事を安請け合いするからでしょう」

「・・・。仕方無いだろ。お前だって関口先輩の頼み事を断れないのに」

「何あんたと一緒にしてんの。私はできない物はできないって断るから。八方美人の誰かさんとは違うのよ。それとも何?先輩が可愛いから、鼻の下を伸ばしてたの?あ~、やだやだ。下心丸見えの男とか最低。もういい。一人で帰るわ、じゃあね」

言いたい事を言って、その場を後にしようとする夏実。口下手な俺は彼女の勝手な妄想(いや、多少正しいのかもしれないが)を否定する事もできず、唖然とした。これが俺と夏実の日常。友達という枠からは超えない、気楽で曖昧な、時に苦痛を伴う関係。だからこそ言えなくなってしまう。彼女の一挙一動に振り回されながらも、俺が友達以上の存在では無く、また、そうでありたいと願っている彼女に気付いてしまうから。


―夏実と同じ時間を共有している幸せを失くしたくない―


そんな、束縛にも似た感情に囚われている俺には、壊す事なんてできないのだ。ただ、彼女の傍にいられれば良い。たったそれだけのために。

生徒会室を出ようとしていた夏実の動きがふと止まった。

「どうした?」

思わず俺はそう問い掛ける。今、考えていた事が実は筒抜けだったんじゃないか。なんて不安になったのだ。

「それ、いつまでだっけ?」

「期限?来週末まで」

夏実は少し躊躇いながらも、無邪気な笑顔を見せた。

「日曜、どうせ暇でしょ?手伝ってあげよっか」

その言葉と彼女の笑顔に、胸が高鳴った。こんな瞬間、いつも思うんだ。どうしようもなく夏実が愛しいって。大好きだって。バカだなぁ、とか思いつつも。

「サンキュー」

一も二もなく返事をする。きっと今、俺の頬は真っ赤になってるだろう。夕暮れ時で、朱に染まった部屋が本当にありがたい。

「その代り、駅前の喫茶店のスペシャルパフェ、愁の奢りね」

「そんなの、もち」

そのくらい、いくらでも出してやる。理由が何であれ、俺が夏実と一緒にいられる時間が増えるんだから。

「じゃ、帰ろう。まさか、一週間自転車で送り迎えしてくれるって罰ゲーム、忘れてないわよね?」

変わらず笑顔の彼女に、俺はこくんと頷いたのだった。


お読みくださりありがとうございました。

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