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【勇者のお誘い】

 【勇者のお誘い】

 「さて、下校の前に保健室へ寄るぞ」

 「このくらいでか。冗談だろ」

 「安心しろ。麻島タカシ。何をどう言おうと、私は連れて行く」

 力強く、カオルはぐいっとタカシを扉の前に引き寄せる。絶妙な力加減と体重移動のおかげだろうか。

 「ちょ、待てよ」

 「待たない」

 「これくらいで薬使ったらもったいねーよ!」

 「なら、私が傷口をなめてやろうか?」

 豊泉院生徒会長ファンクラブが聞けば、我先にと怪我をしてくるだろう。しかし、タカシには何故か拷問の誘いにしか聞こえない。カオルには魔王と同等以上に何か恐ろしいものがあった。

 「……わぁーったよ」

 「そうか」

 タカシはカオルの手を振り払おうとしたが、がっちりと取られてしまっている。逃げの一手も防がれた。タカシは観念するしかなかった。


 【それから保健室へ寄って傷薬やシップを貰う】

 「無敵の生徒会長様が男連れとはね」

 保険女医の生方(いくかた)ナエがきぃと椅子をきしませる。ナエ女医はきっちりとした白衣を身に着け、伊達眼鏡をすることでほぼ完璧な保険女医という外見を作り上げていた。

 「浮いた噂は無いと思ったけど、やっぱり意外というか珍しいというか」

 「私の力が及ばなかったが為、不要な怪我をさせてしまいましたので」

 「ちょっと待て。別に俺はわざわざ生徒会長様に助けてもらおうなんて思ってなかったんだが」

 「それでも助けるのが私だ」

 タカシとカオルが向き合い、男の意地と生徒会長の責任で互いに譲らない。

 「あらー、おてて繋いで痴話喧嘩までして。どうしたの、あなたたち」

 「別に」

 「何でもありません」

 2人は照れているわけでも、デレているわけでもない。ただ真顔でほぼ同時に言い返した。

 「それと麻島タカシの手ではなく手首をつかんでいたのです」

 「それだと違うものなの?」

 「はい」

 カオルの言葉にナエ女医は「んーっ」と考える。手を繋いだなら仲良しだが、手首なら一方的な連行ということだろうか。

 「……なるほどなるほど。ならいいわ」

 「何がいいんだ」

 「これ以上はツッコまないであげる。首筋の傷は引っかき傷?」

 ナエ女医が興味心身に、面白そうにツッコんできた。実に楽しそうに話しかけてくれるが、タカシもカオルも付き合いきれないといった表情だ。

 「下校時刻ですので、これで失礼します」

 「あらヤダ。もうそんな時間かぁ。今日、見たいテレビがあったのに忘れてたわ」

 時計を見て慌てて、帰り支度を始めるがすぐにやめてしまった。

 「ま、いっか。ここで見てっちゃおう」

 「教職員もすみやかに下校願います」

 カオルがひとにらみし、たしなめる。おどけているが、耐性も何もないナエ女医は気圧され、それだけで「わかりましたぁ」と萎縮(いしゅく)してしまう。この眼力にかなう者は殆どいない。


 【かたいなぁ、もう】

 「では、失礼します」

 「はい、お大事に」

 かららっと扉をスライドさせ、カオルとタカシは保健室を後にした。廊下には来た時と同じで他に誰もおらず、隠す気は無いが2人でいるところは見られてはいなさそうだった。

 「……さて、あとは運動部の者に声をかけるか。練習熱心なのは良いが、下校時刻は守ってもらわねばな」

 「俺は帰っていいか」

 「構わんぞ。明日、待っているぞ」

 そう互いに挨拶を交わし、別れようとしたのだが、いつまでも2人は一緒だ。それもそのはず、この時間だと正面玄関しか鍵が開いておらず、出るところがないからだ。

 ―――冷静に考えたら、なんか変な感じだな。

 成り行きとはいえ、こうして並んで歩くようなことが今までに一度でもあっただろうか。いや、無かったはずだ。

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