【その声には聞き覚えがあったし予感もあった】
【その声には聞き覚えがあったし予感もあった】
「まだ練習してんのか?」
「え? うん」
噂をしてから、だいぶ経ってのご登場だ。はっとハヤミが振り向いたところにはタカシがいた。それと同時に、タカシも陸上部に混じった魔王とカナの存在に気づいたようだ。
「……なにやってんだよ、お前は。朝来野まで巻き込んで」
「ぬ。巻き込んでおらんぞ」
というか、と魔王がタカシに指差した。
「おぬしこそなんじゃ。その横におるものはワシに対する嫌がらせか何かか。このご両人め!」
これから帰宅しようとしているタカシの横に、魔王の天敵である豊泉院会長が……カオルが並んで立っていた。他に超・生徒会メンバーもおらず、2人水入らずの下校にしか見えない。
「ああ? またわけのわからねーこと言ってんな、オイ」
「私から説明しようか?」
「いや、いい。疲れるだけだ」
カオルがタカシに臆さず聞くので、ますます怪しく見える。目と目で会話しているようにも見える。魔王がきぃっとにらみつけた。
「ええい、話さんか!」
「うっせーな。生徒会長様の仕事につきあわされたんだよ」
「麻島タカシは素行面に問題があるからね。多少の罰則を受けてもらった」
「へー」
ハヤミは割と寛大のようだが、魔王は子供のように文句を言っている。タカシの首筋に授業中には貼ってなかったシップのようなものがあり、それが何か2人の仲の証拠を隠しているようで怪しいといちゃもんまでつけはじめた。
「これじゃ。何をしとったかは知らぬが、これがワシに対する耐性を身につけさせたんじゃな!」
「……話になんねぇ。じゃあな」
タカシがカオルと魔王を置いて、さっさと行ってしまった。誤解を招いたのを認め、かつ陸上部員達は表情も内心も穏やかではないものを感じ取り、早々に場を離れるのが賢明だと判断したからだ。
「待たんか! タカシ!」
魔王がどたどたとタカシの後を追い、ハヤミが面白そうにその後を走ってついていく。残された陸上部員もいざカオルと同じ場にいると緊張も神経も保たなかったのか、いつの間にか姿を消していた。残ったのはカナだけだ。
「……えーと」
「朝来野カナ」
カオルが急に話しかけてきたので、思わずピッと背筋を伸ばしてしまう。普段から近寄りがたく、実際に近寄ることが出来ない人だから、反射的にそうしてしまった。
「麻島タカシとは親しいのか?」
「ええと、クラスメイトで、親同士の仕事上のお付き合いがある程度……です」
「そうか。ありがとう」
それだけ言うと、カオルも行ってしまった。質問の意図が読み取れなかったカナは、ただ首をかしげるほかなかった。
「うん?」
たっぷり1分思案したところで、カナも帰宅することにしたのだった。




