【この学校ってどうですか?】
【この学校ってどうですか?】
「そいつによるだろ。自分の偏差値で入れるからってだけで選んだら後悔するかもしれねーし」
簡潔かつ適当な受け返しだった。
「ま、俺は家から近いんで選んだんだけどな」
それで後悔はしていないのか。タカシが今言ったような損は感じていないのか。
「どーだろーな。何やっても完璧に後悔しない学校生活なんてねーだろーし」
高校生活はそんなものだ。そこには今までの義務とは違った教育が待っているのだ。
「俺はここで野球してんのが楽しい。ま、勉強は苦手だからそっちは苦労するけどよ」
タカシは「それよりも陸上部行って話聞いてこい。野球部にいてもしょうがねーだろ」とにべもない。ハヤミは何か間違ったかな、と首をかしげた。
「まぁ頑張れ」
それだけ言い捨てて、タカシは白球を投げながら文化祭の催し物に戻っていった。毎年、野球部はグラウンドの一部を使ってそれに関するゲームをしていた。今年は部員のノックを取れたら賞品をくれるのと、定番のボール当てだった。
【なんて言うか】
「私は、こーいう先輩がいる学校に入りたいなーって思ったんですよ」
「惚れたのか」
「や、そういうわけじゃないですけど」
「いや、気づかぬフリをしとるだーけーじゃー」
愉快そうに笑う魔王がハヤミに迫る。砂で汚れたその頬が赤く染まる。照れか怒りかはわからないが、その慌てぶりから脈が無いわけでもないらしい。
「でも、ほんと麻島先輩とどうこうって思ってませんから!」
「ふっ、とか何とか言うて、なにかとタカシについてまわっとるではないか」
タカシの通学路とわざわざ走りこみのコースと時間を被らせたり、校内を走り回っているのもより多く自然に出会う為なのか。魔王の詮索にハヤミが顔をそらし、なんとか重圧に負けないよう耐えている。
「あ……あれは、その、麻島先輩……もー野球部戻んないのかなーって。楽しそーにやってたのに」
「ワシからすれば、そこでおぬしが野球部に入っていれば多少は説得力があったんじゃがのぅ?」
「だって、私はその……麻島先輩より、走るのが好きだったし。それに、私が麻島先輩見つけた時にはもう辞めてましたから……」
思慕より運動ということだ。野球部は女性選手を取らなかったし、ハヤミ自身も走ることからまだ遠ざかりたくなかったのだろう。
「なんじゃ。1年も保たなかったのか。単にタカシの根性が足らんかっただけじゃな。間違いないっ」
「や、決めつけは良くないと思いますけど」と半ば諦めの表情でハヤミは魔王をさとす。
「ま、私も色々聞いたんですけど、麻島先輩、私のこと覚えてなくて……カオミシリやオトモダチから始めました」
半年も経っていたのだから無理ないことかもしれないが、憧れや追いかけてきた方からすればがっくりとくることだった。カナと陸上部員達は完全に話から置いていかれ、互いの顔を見合わせてみるしかなかった。
「あの朴念仁じゃから仕方がないのぅ」
「ですねー」
魔王がくだらなさそうに言い、ハヤミがくはぁとため息を吐く。そろそろ魔王はこの話自体に飽きてきたようだった。
「そろそろ帰るとするか。カナ行くぞ」
「え、あ、うん……」
「不満か?」
「別に、ね。もういいのかなーって」
カナが少しおどおどと言うのを、魔王はつんと返す。
「まだいたいならワシに構わんでいいぞ」
「うーん」
少し迷っているようだから、魔王はカナを置いてさっさと帰ることに決めた。即決だ。
【ランナーズハイとは別次元】
「陸上部もそろそろあがりかな。私はもーひとっ走りしてこよーっと」
「元気だなぁ、お前は」
軽いストレッチをするハヤミを、ここにいてついサボってしまった陸上部員達は苦笑する。
―――その走るのが大好きということ。それはタイムを追い求め・この世界で生き残る為の才能より、ずっと手に入れることが難しいもの。
その才能がある陸上部員達はハヤミの入賞よりも、そのことの方が何倍も羨ましかった。当たり前だからこそ、見失いがちになる大切な心。むしろ、ハヤミの入賞は当然ともいえる。
「ほんっと羨ましいよ、お前」
「へ?」
「どうでもいいことで悩みやがって。バッカじゃねーの」
いきなり悪態をつかれ、ハヤミがショックを受けているようだ。だが、魔王は陸上部員達の心の内を察する。
「下手の横好きも、1年通せば存外ものになるものじゃ」
「なんか意味違うよー、それ」
魔王の冗談とも取れない言葉にがっくりとうなだれるハヤミを見て、陸上部員達が笑う。これほどハヤミに適した言葉が他にあるだろうか。
「あーあ、もう」
ハヤミがため息をついたところに、声がかかった。




