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【ワシの辞書には関係ないものばかりじゃのぅ】

 【ワシの辞書には関係ないものばかりじゃのぅ】

 「意味がわからん。才能とは関係ないし、好きならずっと走っておればいいじゃろ」

 「うん。最初はそう思ってた。報われるかわからないから、努力もしてきた。努力の前に成功がくるのは辞書のなかだけって思って、頑張った」

 ハヤミがきゅっと自らの足を抱きかかえた。

 「でも、辞書や現実には努力よりも成功よりも先に才能って言葉が出てきた。その前には壁って言葉もあった」

 「諦めも先にくるのぅ」

 魔王の言葉にハヤミは自嘲的に笑った。確かにその通りだ。


 【話に入れないのに引き合いに出されてもなぁ、とか】

 「好きなだけじゃ、頑張るだけじゃどうしようも出来ないこともあるってわかった。才能とタイムを追い求める世界じゃ、私は生きてけないって」

 「それだけ走れるのに、贅沢者め。カナを見ろ! とろくても体育の時間は頑張っておるぞ」

 「うん。それはそう。でも、私は……」

 好きなことだから、続けていくことも諦めるのもつらい。好きな道で生きていけると思ったから、長く続けていけたこともある。だけど、いつかは才能の存在・有無に気づく。

 「才能にも色々あるじゃろ。好きだということもひとつの才能じゃ」

 「うん。だから、私に足りないのはこの世界で生きるだけの才能だって」

 昨日は周回遅れにした人が今日には自らが追い抜かれていく。それが努力以降の才能の世界だ。

 「別に走るのが嫌になったわけじゃないし。ただ、少し……残念なだけねっ」

 語尾を強くし、ハヤミはそうまくしたてる。

 「無理をしとるのが見え見えじゃのぅ」

 「魔王さんっ」

 カナが魔王のことを再度止めようとするが、いかんせよ力の差がありすぎた。カナの腕を振り払うと、魔王はずいっとハヤミの前に立った。しかし、身長差で目の前には立てなかった。

 「ワシの見込み違いじゃった。否。所詮、平民は平民でしかないか」

 ハヤミは何も言わず、ただ少しだけ顔をそらした。カナはかける言葉が見つからないようだが、魔王は更に吐き捨てた。

 「……ワシから見れば平民の才能なんて無いに等しいのぅ! くだらんことで悩むから、おぬしはその可能性を潰しとるんじゃ」

 魔王の真っ直ぐで正しい言葉に、ハヤミは何も言い返せなかった。

 「自虐的になれば、誰かが優しい言葉をかけてくれると期待したか? 才能という言葉は便利じゃのぅ。目に見えぬから、余計に使いやすいしタチも悪い。正直、それを連呼するやつはみっともないぞ。馬鹿の一つ覚えとはよく言ったものじゃ」

 「……魔王先輩はっ」

 こぶしを握り締め、ハヤミが何か言おうとした。その時にはもうそこに姿は無く、代わりに怒鳴られかけたカナがおろおろしている。

 「あれ?」

 「こっちじゃ」

 声がする方を見てみると、魔王が手招きをしている。いきなりの乱入者に困っている陸上部員達がいるそこは、スタートラインだった。

 「ワシと競争してみんか? 距離は100mじゃ」

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