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【陸上部の見学に行くだけじゃ】

 【陸上部の見学に行くだけじゃ】

 「なんだ。そうだったんだ」

 「そうだったんじゃ。なのに、あやつらときたら」

 ぶつくさと文句を言う魔王にカナは付き合っている。もう引きずり回してはいないが、繋いだ手は離してない。魔王が軽く握り返すとカナも同じだけ力をこめて返してくれるので、心地よいのだ。カナも恥ずかしがることはなかった。

 「誰か陸上部で知っている人がいるの? それとも入部?」

 「ハヤミとやらに会いに行く。ついでに推薦とやらについても聞いておこうと思ってな」

 「ふーん。……私もついていっていいの?」

 「勿論じゃ」

 魔王は鼻息荒く、また力強くカナを引っ張って階段を下りていく。カナもそれに逆らわず、少し前のめりになりながらも何とかついていった。

 「で、どこで陸上部は練習しておるのじゃ?」

 「えっ」

 「カナは知らんのか?」

 「う、うーん。たぶん、校庭じゃないかな」

 自信無さそうに言うカナに魔王は「そうか」と小さくつぶやき、急ぎ足で昇降口まで行こうとする。結果的にぐいっと引っ張られる形になり、カナが前のめって転んだ。平坦な地面ならまだ良かったのだが、ここは起伏のある階段だった。

 「あ」

 上から落ちてくるカナを、魔王は背に負うこととなる。

 「ぬ」

 体勢が崩れた所為か、支えきれずにそのまま踊り場まで落下することとなった。階段は中腹を過ぎていた辺りだったのが不幸中の幸いだったようだ。

 「ご、ごめんね、魔王さん」

 「……良い。気にするな」

 カナがおどおどするが、魔王は平然としている。「どこか怪我してない? 痛くない?」と慌てるカナを魔王はどこも怪我をしていない。逆にカナの方が本人は我慢しているのか気づかない程度の痛みなのか、すり傷をつくっている。

 「ワシより自分の身を気にしたらどうじゃ?」

 「え、で、でも、私がとろかったから……」

 「ワシも少々気がはやりすぎた。手を離すか」

 魔王が名残惜しそうに手の力を緩めるが、カナの方が離そうとしない。えへへと微笑むカナに魔王はぽかんとしていたが、やがてプッとふいた。

 「ま、良いか。行くぞ」

 「あ、うん」

 服の汚れを軽くはたきながら、再びカナの手を握り締める。その時に魔王はカナに魔王の力を込める。手を取り、先導という支配の形だ。カナのすり傷が少しずつ回復していくのに、その本人は気づかない。否、気づかれないように魔王がしているのだ。

 ―――力を隠す意味などないが……ワシの威厳がそこなわれぬように、な。

 ぱたぱたと2人は駆け足で、陸上部が練習しているだろう砂地の校庭へ向かった。

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