【名前】
【名前】
タカシはまず聞いておかなければならないことを聞くことにした。
「お前、名前は?」
「魔王になった時、それ以前の名は捨てた。よって本名が魔王じゃ」
家出少女は興奮からようやく落ち着いたのかぺろぺろとアイスをなめながら、悠然と答えた。しかし、タカシは納得していないようだ。
「ふざけてんのか」
「ふざけてなどおらぬ。役割や階級がその者の名になることは珍しくないじゃろ」
「……」
タカシは頭を抱えると、家出少女はふふんと笑った。
「平民。ヌシの名を聞こうか。ありがたく思え。勇者以外の平民の名を魔王に覚えてもらえるなど、めったな幸運ではないぞ」
「今度は勇者か。おれは麻島タカシ。この八百屋の息子だ」
「タカシか。面白い名じゃ。ふっ、響きも悪くないのぅ」
「そりゃどうも。こちらとしては、さっさとお前の本名を教えてほしいものだがな」
「タカシは物覚えが悪いのぅ。ワシは魔王じゃと言うておろうが」
家出少女はそう言いながら、とうになくなったアイスの棒を未練がましくなめ続けている。ずいぶん庶民的、かつ貧乏臭い魔王様だ。
「タカシ。これのおかわりを持てい」
「そんなに食うと腹壊しそうだから駄目だ」
「ほほぅ、魔王に逆らうとはいい度胸をしているのぅ」
「脅しても無駄だ」
家出少女は「なんじゃ、つまらん」とアイスの棒をぴんと指ではじいた。タカシは「きちんとゴミ箱に捨てろ」と言おうとアイスの棒を目で追おうとするが、床には落ちていない。おかしいと思い、きょろきょろと部屋の中を見ると、なんとかそれらしいものを見つけた。
―――……まさかアレがそうか?
それは天井に突き刺り、根元近くまでめり込んでいた。




