【時間は都合的に魔王とタカシが飛び出したばかりのところまでさかのぼる】
【時間は都合的に魔王とタカシが飛び出したばかりのところまでさかのぼる】
「どこいくんだよっ、お前は!」
校内を走り回る魔王をタカシが必死の形相で追う。昼休みで廊下の往来も激しく、ぶつからないように走るのはタカシには困難だったが、魔王は軽やかに避けていく。
「タカシは別についてくる必要はないんじゃが」
「目ぇ離すと絶対何かやらかすからな、お前は」
「信用無いのぅ」
「日頃の行いを恨め」
「大したものではあるまい」
これだけ走っていれば、自ずと目立つのは当然のこと。すれ違う教師に「廊下を走るなっ」というありがちな注意を受けるが、魔王は止まらない。とりあえず、昼休み終了時間を気にしているのかもしれない。
「とりあえず、どこ行くんだよ。校舎内、まだ把握しきってねーだろ」
「ふん。それはそうじゃが、なに、目的地はすぐわかる」
それだけ言うと、魔王は階段を駆け上がる。タカシもそれを追い続けるが、行き先がわからないので先回りすることも出来ない。純粋な脚力勝負なのか。
「なぁに走ってんだよっと」
ばしんと背中をたたかれ、タカシは勢いづいて前へつんのめる。こんなことをするのは1人しかいない。
【走ってる時に背中たたくな】
「あぶねーだろーが! ハヤミ」
「麻島先輩こそ、また走りこみ始めたんですか」
ハヤミは階段上りのトレーニングを昼休みにやっていたようだ。他に部員はいないから、これも自主トレだろう。
「ちげーよ。あのバカ追ってんだ」
「バカ?」
タカシはあごで前を指し示すと、ハヤミがあぁと小さくうなずいた。魔王の姿は階段から離れ、見えなくなるところだった。
「追いついて止めればいいんですか?」
「……まぁ、な」
そう返すと、ハヤミは一言で表すならギアチェンジした。階段を跳んで上がり、廊下の直線で魔王の姿を再び捉えた。タカシではない追跡者に魔王も気づいたようだ。
「ぬ?」
「あなた速いね。陸上部に来ない?」
ハヤミはつま先で思い切り床を蹴り、最後の加速を試みた。ぐんと魔王に近づくと、その体重をすべて乗せるようにタックルをかます。このタイミングなら、はずれないし逃げられない。
「やるのぅ、おぬしも」
しかし、魔王はひらりと避けてみせる。ありえない反射神経と体勢で、人間の領域では出来ないことを見せつけるかのようだ。
「じゃが、平民は平民じゃのぅ」
ハヤミがその魔王の身のこなしに見とれてしまい、受身を取り損ねた。頭から床にぶつかり、擦れるように滑っていく。その先にあるのは壁と柱の角だった。勢いは止まらない。距離が近すぎた。




