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【近づけるわけないだろ】

 【近づけるわけないだろ】

 見事に声が揃い、ミツルは心の中で拍手を送った。それはタカシが怖いからなのか、魔王に近づきがたいオーラでも出ていたのか、アンナとミツルという壁がそれらを強化していたからなのか。その周囲の揃いも揃って真剣な表情に、ミツルは苦笑するほかなかった。

 「まぁ、それなら代わりに教えてやるか」


 【とりあえずさっきの言い訳候補を適当に混ぜてみよう】

 「……実は魔王さんはタカシの母方の叔母の娘の父方の祖父の孫娘の一人娘で身寄りが亡くなってしまった帰国子女なんだ。そういうわけで、今、仕方なく他に本命がいる安全パイなタカシの家に居候してるんだって」

 「な、なんだってー!」

 ミツルの周囲から歓声があがる。よほど衝撃的だったのか、ありえなさに受けたのかのどちらだろう。冗談と思われるなら、いっそ本物の魔王である真実を伝えてもよかったのだ。

 「うっそ、それ本当?」

 「魔王さん、結構苦労してるんだね」

 「うはっ、ゲームみてぇ。麻島のヤロウ、羨ましいなぁ」

 だが、現実味が無いぶん、周りのクラスメイト達は思わずそれを信じてしまったようだ。これから、この設定に脚色という目にも耳にも鮮やかな尾ひれがついていくことだろう。それこそがミツルの狙いでもあった。


 【臆さない憶測】

 「でも、麻島くんの本命って?」

 「知らない。けど、親友の勘がそう告げているんだ」

 「じゃあ、魔王ちゃんにひっついてんのは変だろ」

 「うーん、本命の気を惹かすためとか。ほら、やきもちみたいなの」

 「あー、案外姑息なんだ。麻島くんて」

 「意外と方便なんじゃないか?」

 口々に憶測が飛び交う。思った以上の効果が出始めた。よくわからないぶん、否応なしに要らぬ妄想や想像をかき立ててしまうのだ。

 「世間的には、結局同じ屋根の下に若い男女が住むんだろ? そういう男にフツー本命の女子はひかねーもんなの?」

 「どうかなー。私だったらイヤかも」

 「待て待て。本命が女子とは限らんぞ」

 「いやーん、でも、なんかそれもイーなぁ」

 「麻島くんのイメージが変わった。……なんかずっと怖い人かと思ってた」

 「そうそう。そうだよねー」

 「いやぁ、でも、あいつマジ怖いやつだったんだぜ? 中学の時なんか……」

 「そーねー。1年の時から甲藤くん達とはよくいたけど」

 クラスメイト達によるタカシの評価がプラスやマイナスを行き来する。不良臭く不器用などの性分でマイナスイメージばかりだったタカシが、クラス全体の興味対象というものに変わっていく。

 「タカシは本当にいいやつだよ」

 アンナを抱きしめたまま、ミツルはそう語った。今までクラスメイト達はタカシのいいところを知らなすぎたのだ。必要なのは相互の距離と溝を埋めていくきっかけだけ。

 「あ、でも……これ以上詳しいことは本人を問い詰めるしかないな」

 この魔王とタカシの設定は放っておくだけで、色々と面白いことになっていくだろう。だから、地雷ともわかっていながら、ミツルはあえて踏んだ。あとでタカシに殴られそうな悪寒がするが、これは真の友情による親友の為だと開き直る。

 「ミツルゥウゥゥウッ! 好きだぁあぁあぁぁぁあ……っ!」

 「はいはい」

 ちらりと時計に目をやると、あと1分でチャイムが鳴る。今や時の人となったタカシと魔王はまだ戻ってこなかった。

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