【抱擁と包容】
【抱擁と包容】
突然のミツルの行為に、周りの時間が止まったかのようだった。タカシや魔王、クラスのざわめきも一瞬だけ止まった。
「ちょっとは落ち着けよ」
「や、やめろ……私は勇者くさいんだぁあぁぁ……っ」
「ん? アンナのどこがくさいんだ? いい匂いしかしないぞ」
「ひゃ、ひゃうぅうぅぅっ!」
ミツルがアンナの髪を撫で、かき抱いてみせる。その包容力と見せつけっぷりにタカシをのぞいた男子生徒達と慣れない魔王がひいた。女子生徒達はきゃわきゃわ言いながら、写メを取っているものもいるたくましさを見せてくれる。
「……」
何を思ったか、アンナから離れられた魔王が教室を飛び出した。
「おいっ」
昼休み終了のチャイムまで残り10分もない。タカシは舌打ちして、その後を追いかける。
「タカシも過保護だなぁ」
「ミツルゥウゥゥゥゥ……ッ!」
アンナが幸せすぎてとろけてしまいそう、という表情を見せる。ミツルがさりげなく押しやるが、アンナは離れようとはしない。そんな状況下だが、クラスメイト達は一斉に2人の方へ流れ込んだ。
「おい、魔王ちゃんと麻島はどんな関係なんだよっ」
「ねーねー、あの2人が一緒に住んでるって本当?」
「親同士が決めた婚約者っつーのはマジなのかっ」
「実のところ、腹違いの妹説も浮上してるんだが」
「いや、あれは小さいころに離れ離れになった幼馴染だよなぁ?」
「麻島くんは朝来野さん狙いじゃなかったの?」
「げ、マジかよっ」
「魔王ってあの暗黒の力を使い、この世界を白光の浸食から守ろうとしている三大王が1人で今まで所在が不明だった彼女なのかい」
「麻島のヤロウ、ストーカーしてんじゃねーだろーなぁっ!」
「ミツル君はどうなの? 麻島君盗られちゃうよ?」
抱擁しているアンナは夢の世界なので、しらふのミツルがクラスの半数以上の興味と質問を一身に包容するはめとなった。それらのなかには発言そのものは電波ながらも、実は核心に迫っているものもある。
「ああ、もう俺は聖徳太子じゃないぞ」
「勿体ぶんなよな、オマエも」
「そーよ。いきなりあの関係じゃない。こっちは気になって仕方なかったの!」
その言い分にミツルが小さくため息を吐いた。
「なら、本人に聞けばいーだろ」
そう返すと、ミツル達の周りに集まったクラスメイトが声を揃えた。




