【魔王降臨】
【魔王降臨】
女の子は腕を組み、ふふんと笑って言った。
「ワシは魔王様じゃ。世間知らずの痴れ者め、恐れ多いぞ」
「あ、そう」
タカシのその淡白な表情と返答に、魔王様はむっとしたようだ。
「小石を当ててしまったことは謝る。だが、子供の遊びに付き合う気はねぇぞ」
「ほぅ、信じぬというのか?」
「信じるも何も、魔王って何だよ。今、そういうアニメやってんのか?」
タカシと自称・魔王様の身長差は50cmはある。どう見ても威厳も何もない小学生の女の子の不可解な言動に、タカシは首をひねる。まともに考えることではないのかもしれないが、この女の子に妙に満ち溢れている自信は何なんだと声に出さず自問する。
「魔王は魔王じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」
「それがわからんから聞いてるんだろうが。というか、もう元気だな。アイスやるから家に帰れ」
タカシはあきれ果て、もう相手にしないことに決めた。さっさと家の冷凍庫からアイスキャンデーを押しつけて家に帰そうと台所の方へ向かう。
「……帰る場所など無い」
ぴたっとタカシの足が止まり、女の子を振り返り見た。そうして顔を見れば、ふいとそむけてしまう。タカシは自らの額に手の平を押しつけ、げんなりした。
「家出少女かよ……」
【ワケあり少女?】
「じゃから、ワシは魔王じゃと言うておろうが」
家出少女は何故かふんぞり返って、げんなりしているタカシの方を見る。
「あぁ、くそ、とんでもねぇもん拾っちまった」
「聞いておるのか、平民!」
げしっと一撃、家出少女はタカシに蹴りを食らわせる。しかし、体重差もあってかダメージは無いに等しい。それでも、挑発には充分だ。
「……わぁーった。話聞いてやる。聞いてやるから、お前、部屋行ってろ」
「ほぅ、ワシに命令する気か」
「いいから、行け。ここ真っ直ぐ行ったところ、奥の部屋な」
タカシはシッシと手を払い家出少女を奥の部屋へ追いやってから、台所ののれんをくぐった。
「アイス残ってんかな」
冷凍庫を引き開け、中を覗き込んであさって見る。
「あら、あの女の子はどうしたの?」
そんなタカシの横からミカコがアイスをくわえて顔を出した。気配に気づかなかったものだから、思わず見つけたアイスを床に落としてしまう。袋入りだからセーフだ。
「……家出少女だった」
「あ、そ」
タカシがそれだけ言うと、アイス片手にミカコはやれやれとため息を吐いた。
「昔からアンタは色んなもんを拾ってきたわねー。血かしら」
幼い頃から目つきの悪いタカシがふるえる小動物を抱えて帰ってくる姿は滑稽でもあり、困ったものだったとミカコはしみじみと語った。
「よけいなお世話だ。とりあえず話聞いてやって、気がすんだら親に電話かけてやる」
「ま、それでいいんじゃない。なんなら、夕飯ぐらい一緒にどうかしらねー」
ミカコは適当に答えて、さっさと表の店に戻っていく。ここへはアイスを取りに来ただけか。
タカシは「さて、どうしたもんか」と呟きながら、見つけたアイスを手に持って、家出少女のいる部屋に改めて向かうことにした。




