【1行】
【1行】
「わかっとらんのぅ、タカシ。確かにそれは可能じゃが、所詮は表面上だけ。履歴を見ればたったの1行かもしれん。しかしその1行にその人間の数年間が詰められておる」
その1行は軽んじられも重んじられもする。魔王はそれも図書館などで見て、知ってきたという。
「そのような時間をともなう思い出までは、ワシの力を以ってしてもどうにもならぬ。それでは意味が無いのじゃ」
ちゃぶ台に両手を置き、魔王はその身を乗り出して語る。
「今からでも遅くはない。ワシは向こうで生きてきた礎の上に、ここで生きてきたという時間や証明を作らねばならぬ。ここで、更に生きていく為に―――」
ミカコは頬杖をつき優しい眼差しで魔王を見つめ、タカシはふぅっと息を吐いた。
「正直、意外だった」
魔王がここまで真摯に考えていたとは、普段の態度からはなかなか想像つかないことだった。
「失敬なやつじゃ」
「ああ、失敬だった」
「そこは失礼でいいんじゃないかい」
ミカコがそう微笑むが、フォローにはなっていない。それからミカコはタカシの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「あんたはね、1人で抱え込みすぎなんだよ。もっと周りを頼んな」
「……」
タカシは撫で回されることにも黙って、ぶすっとしている。魔王はにやにやと笑っている。
「ほんっと損な性分だね。難儀な子だよ」
「うるせーよ」
「タカシは本当にそればかりじゃのぅ」
「うるせーよ」
ミカコが撫で回してるのをどう見たのか、魔王も撫で回し始める。流石にこの扱いにはタカシもうなる。
「いい加減にしろ」
「ふーふーふふふ」
魔王もミカコもどこか嬉しそうに撫で回すので、タカシは手でそれを払った。
「で、お前はこれからどうしていくんだ」
「言うたろう。高校へ通い、最終的には卒業する気じゃ」
「自立するのね?」
「うむ。そのような気でおる」
少し頼りない言葉だが、魔王の気概はわかった。麻島家は結論を出した。




