【それは突然だった】
【それは突然だった】
店の奥へ行って寝かせる前に女の子が目覚め、背負っていたタカシを蹴り飛ばしたのは。油断も何も予期していなかったタカシはそのまま前のめりに倒れ、そこを更に女の子が足蹴にする。
「何をするか、この無礼者めがっ」
「無礼はどっちだ、コラ」
ドスのきいた声に女の子がわずかにひるみ、タカシは立ち上がった。
「まぁ、思ったより元気そうで良かったけどよ」
「良かったではない。まずはひれ伏せ、平民」
女の子が小さいながらにふんぞり返るが、タカシはまったく動じない。むしろ、この唐突な展開にあきれてしまっている。
「……お前、この暑さで頭がどうかしちまったのか? それとも小石の打ち所が悪すぎてそうなったのか? 何かのごっこ遊びか?」
「ますます失礼な平民じゃ。しかしまぁ、このワシを恐れぬとは大したタマよのぅ」
女の子がにやりと見下すように微笑むと、タカシは更に微妙な顔をしてみせた。それがどうも女の子の気に障ったらしい。
「な、なんじゃその顔は! ワシに小石をぶつけたことを謝らないどころか、反抗的なその目つき! 厳罰ものじゃ」
「あぁ、そうだった。悪かった。おれの不注意で小石をぶつけちまって」
タカシはまだ謝っていないことに気づき、深々と頭を下げた。それを見た女の子は下げた頭に自らの片足を乗せ、タカシを見下す目に加えて勝ち誇った笑みを見せた。
「殊勝じゃな。身の程を今さら知ったか、平民」
女の子は更にタカシの頭を踏みつけたまま、ぐりぐりと押さえつける。
この振る舞いに、今までこちらに非があるからと耐えたタカシも爆発した。
「何様のつもりだ、お前はっ」
タカシがぐんと首に力を入れると、片足を乗せていた女の子はその勢いにのって跳び、縦に2回転半ひねり、華麗に着地して見せた。
「はっ?」
踏みつけられ、首を押さえたタカシは奇声に近いものをあげた。恐ろしく運動神経のいい、妙な動きをする女の子は不敵に笑っている。
「ふっ、言うに事欠いて何様じゃと? ヌシこそ何様のつもりじゃ」
その物言いにタカシは怪訝な顔をすると、女の子は堂々と言ってのけた。
「ワシは魔王様じゃ」




