【ものの2分で】
【ものの2分で】
「成る程のぅ。これが原因か」
魔王はふぅとため息を吐いた。しかし、確かにこれは由々しき問題だ。
「タカシ。おぬし、本当の馬鹿者じゃな」
「うるせーよ」
先程までカナと魔王を囲んでいきがっていた連中は、いきなり現れたタカシに軒並みのされてしまっていた。その後ろで両手を上げていかにも「俺は手を出してません」というポーズを取るミツルと抱きついているアンナがいる。
「しかし、どうしてこんなことになったのかのぅ」
「麻島くんは悪くないんです」
そう弁明したのはカナだった。魔王は面白そうに「聞こう」と返した。
「ついこの前、私が町でこの人達にからまれていたおばあちゃんを助けようとして、間に入って……」
【9月2日の夕方】
「なんだよ、おめぇは」
「何をしているんですか」
部活で少し帰りが遅くなったカナは、偶然見かけてしまったガラの悪そうな男子生徒達と見ず知らずのおばあちゃんとの揉め事に間に割って入った。
「こいつがよぉ、人にぶつかってあやまらねーんだよ。あー、いてぇ」
「なんだぃ、わたしゃ道の左はじを歩いてたよっ。よそ見してたのはそっちじゃないか」
男子生徒達と強気なおばあちゃんの言い分がぶつかり合っているらしい。双方があやまればすみそうな話だが、そうは収まらないようだ。
「こっちはな、あいつらのせいでむしゃくしゃしてんだよっ! くっそ、何が超だっ。ちきしょうめっ」
「何かと思えば八つ当たりかぃ。年寄りをいたわるとかいう気持ちは無いのかいっ」
「おばあちゃん」
カナが興奮して真っ赤になっているおばあちゃんをなだめようとしゃがむと、男子生徒の1人がおばあちゃんを蹴り倒した。
「いたわるって何よ。お前、オレ達に何かいーことしてくれたの?」
「うぜーんだよ。しつけーのはてめーもだろ」
「もう行こうぜ」
「待ちなさい」
行きかけた男子生徒がガンとつけて振り返ると、ぱしんと頬に鈍い痛みがはしった。カナの平手打ちが男子生徒にきれいに決まったのだ。他の男子生徒はあっけに取られている。
「何す」
「どちらが悪くても、どっちかに明らかな非があっても、暴力はいけないっ」
カナの震えるような声に、男子生徒の顔がたたかれたところ以外まで赤くなっていく。
「テメ……ッ」
「ナニいい子ぶってんだっ」
1人が拳を固めると、1人が「おいっ、まずいって」と止めようと声をかけた。
「っるせー! ここは校外だっ」
「いい加減、腹が立ってんだよぉ。何が超だっ」
カナが後ろを振り返ると、蹴り倒されていたおばあちゃんの姿はもう無かった。この混乱に乗じて逃げたらしい。
「あぁ、人を助けるって馬鹿だよな」
男子生徒が笑って拳を振り上げ、カナに殴りかかった。カナはそれをとっさに何とかカバンで防ぐが、力に押されてよろけてしまう。
「平手の分だけ返すだけだ」
だが、それだけではすまないような不穏な空気がある。何かしようとも反応が間に合わない―――。
「っ」
カナの目前の拳を誰かの平手がバチンと受け止める。その間に入ったのは配達帰りのタカシだった。少し離れたところに乗り捨てられた愛チャリが放置されている。
「取り込み中らしいな」
「テメェ……」
男子生徒達の方はタカシの顔に覚えがあるようだ。カナはぽかんとタカシの横顔を見ている。
「何がどうなってんのか知らねーが、とりあえずこの拳はおれに向けとけ」
「んだと?」
タカシの物言いにかちんとキたのか、男子生徒達はガンをくれオゥオゥと凄んでみせる。
「なに言ってんのかわかんねーよ。邪魔してんじゃねーよ」
「ワリィのはそのオンナなんだよっ」
「理由が欲しいのか?」
「あ」
タカシが表情を変えぬままにバシバシッバシンといい音を立て、男子生徒達を少しよろけるくらいに平手で押した。それを背に隠されるようにしているカナは唖然としている。
「……どういうつもりだ。ア?」
「これで悪いのはおれだな」
ぎりぎりと男子生徒達とタカシがにらみ合いをしていると、カナがぐいっとタカシの手を引いた。それは無言の訴えだった。
「今日のところはひいてやるよ。だけどよ、このままですむとも思うなよ」
「ナメられたまんまじゃ終わらねぇんだ」
タカシとカナの横を通り抜け、男子生徒が毒づいて去っていく。それは突き刺さるような空気だった。
「―――で、何があったんだ?」
今更のようにタカシはカナに訊くと、真っ直ぐに目を見て答えてくれた。




