【魔王の座学】
【魔王の座学】
「案外、簡単じゃのぅ……」
魔王はタカシの教科書をぱらぱらとめくり、そう呟いた。期待はずれ、そういった顔だ。
「もう少しレベルを上げてもらいたいものじゃ。のぅ、タカシ?」
魔王はすぐ前の席の男の子にそう話しかけた。先程から何度も呼びかけているのに一度も振り返ってはくれない。
「……うるせーよ。授業に集中しろ」
「ふん。教科書も見てないやつが何を言うか」
それはタカシが魔王に貸しているからなのだが、2人はぶつぶつと小声で言い争っている。その険悪な雰囲気に周囲はまた好奇の目を向けている。
「やれやれ……」
その様子を横目で見ていたミツルが微笑ましく2人を見ているが、同時に放課後という座学解放も刻々と迫っていた。
【待ちに待った】
今日一日の授業終了チャイムが鳴った。その直後に魔王はタカシの鞄を放り投げ、帰り支度しているカナの席に向かう。その間に魔王に近づこうとする男女子生徒は目にもくれない。
「少し時間を作れ。話が、ワシが聞きたいことがあるでな」
第一声で既に命令形だ。当のカナはきょとんとしている。
「えーっと、魔王……さん?」
「なんじゃ。それとも火急の用件があるのか? じゃが、それよりもワシとの時間を優先せい」
「うーん、じゃあ少しだけね。いちおう、部活動があるから」
カナの了承を得ると、魔王はうむと軽くうなずいた。それから形式的な社交辞令でもするか、と魔王はカナに訊いた。
「部活動とは?」
「手芸部なの。家の喫茶店のコースターとか、少しでも手伝いたくて」
「タカシと一緒か」
「麻島くん? そうだね」
にこっと笑うカナに魔王はしたりとほくそ笑んだ。タカシへの印象はなかなか良いようだ。少なくともただの不良とは思われていない。
「聞きたいことってもしかしてそれ?」
「いや、それとはまた別じゃ」
カナはふーんと首をかしげている。いちいちその様子が愛くるしいのは幼い顔立ちのおかげか、と魔王は冷静に観察している。
「じゃあ、移動する? 掃除の邪魔をしちゃ悪いし」
「そうか。なら、話す場所は任せてやろう。ワシはまだ校舎内を把握しておらんのでな」
「あ、それなら校内も案内しながらにしようか。てっきり、甲藤くん達としてるものかと思ってたけど……どうかな?」
魔王はそのカナの提案に乗ってやることにした。タカシの動向は付き合いの長いミツルに任せることにしたのだが、それが吉と出るか凶と出るかまではわからなかった。




