【モーゼの正体】
【モーゼの正体】
昼休みに魔王とミツル、アンナは再び応接室を訪れた。その道中で、魔王が屈服させた教師とすれ違ったのだが、本当にミツル達に対して何も言ってはこなかった。
「流石に腹が減ったのぅ」
「あの体育の後だからなぁあっ!」
「魔王さんはなんか凄かったらしいね。男子の間で持ちきりだった」
女子生徒達から聞いた話は魔王が垂直に3m以上跳び上がったとか、残像が残るほどのステップを見せたなどのにわかに信じられないことばかりだった。しかし、当の魔王は平然としている。
「ワシと平民と一緒にするな。肉体構造から違うんじゃから、当然じゃ」
どうやら、あれでも手加減をしていると言いたいらしい。ミツルは肩をすくめ、少し震えた。
「……さ、食べるか」
「ミツルゥウゥウウゥウゥッ! あーんしてやるぞぉおぉぉおおぉおおっ!」
「断る」
各々が弁当を広げ、買っておいたペットボトルのふたを開ける。少し間を置いてから、魔王がミツルに話しかける。
「のぅ、甲藤。タカシの想い人は朝来野カナで間違いはないのじゃな?」
「あ、うん。……まず間違いないと思うけ、どぉッ」
「あれだけわかりやすいものなぁあっ! ミツルゥウウゥゥウッ!」
「こいつ、ほどっ、でもっないけどなぁあっ」
ぎりぎりぎりぎりとミツルとアンナが力と技の弁当攻防戦という取っ組み合いを繰り広げ始めながら、答える。その横で平然と弁当という名のチョコレートを食べている魔王も、この愛の取っ組み合いを見て引かないのは流石の一言だ。そもそもこのバカップルにこそ、世間体云々を問いたいところだった。
「そのカナとやら、集団的疎外に遭ってはおらぬか?」
「は?」
ミツルがぽかんと口を開けると、そこにアンナが隙ありと黒い唐揚げのようなものを放り込んだ。いったん口にしたものを吐き出そうとはせず、ミツルは噛まずに飲み込んだ。
「な……そんなことあるのか」
「私は知らなかったぞぉおっ!」
「少なからず、その傾向があるようじゃ。いわゆるいじめかのぅ」
魔王はやれやれとあきれ、首を横に振ってみせた。ミツルとアンナは信じられないという表情だ。
「ま、まぁアンナはこんなだから気づかなくても無理ないが……俺は同じクラスだぞ」
「クラスの皆が気づかない程度のものでも変わりはあるまい」
ようかんをご満悦で頬張る魔王は「まぁ、タカシは気づいていたやもしれんな」と付け加えた。先程の着替えと体育の時間で、それは魔王のなかで予感から確信に変わったそうだ。
「ゆ、許せんぞぉおっ!」
アンナが暴走し、そのまま問答無用で説教しに行きそうだったのでミツルは足首をつかんで転倒させた。その勢いに容赦なく、アンナはどべしゃんと倒れこんだ。
「で、そのことが魔王さんの生活問題とどう関係して来るんだ?」
「それを踏まえての案がある」
魔王はパンをかじるミツルや突っ伏したまま動かないアンナを見ながら、にやりと笑った。




