【モーゼのジャージ】
【モーゼのジャージ】
ミツルと魔王は2時間目終了のチャイムと同時に教室に戻った。3・4時間目はアンナのいるクラスと合同での体育だが、タカシの姿は見えなかった。
「あ、魔王ちゃん、甲藤くん達とどこ行ってたの?」
「お、噂の転入生が帰ってきたぞ」
話題性はばっちりの魔王に他クラスの者までその顔を見に来ているようだ。出迎えに魔王が気分良くするが、着替えの時間もあるので長続きはしなかった。男子はアンナの教室で、女子は魔王のいる教室で着替えるため男子はあっという間に退散していった。
「ワシはまだ着替えを持っておらんのじゃが」
「あ、それなら見学届けを先生に出せばいいの」
「む? ワシは体育とやらに出たいのじゃが、着替えが無ければ見学なのか」
魔王の言葉にその女子生徒が言葉を濁した。どうやらそれは女子の体育においての当たり前になっているようだ。
「……あの、私のジャージで良ければ、貸しましょうか?」
「おぉ、そうか。そうさせてもらおうか」
既に着替え終わった女子生徒がおずおずとジャージを差し出すと、魔王はそれを受け取る。その時にさっとモーゼのように人だかりが割れた。
「ふむ」
「あ、先行ってますね」
女子生徒が机に身体をぶつけないように避けながら、それでも当たるというとろさを見せながら教室を出て行った。それだけのことで、さっきまで魔王のことで騒がしかった教室が少し静かになった。
「あ、そろそろやばいかな」
静かだった教室も休み時間の終わりが近づくと、また同じようなざわめきが戻り慌ただしくなる。魔王も借り受けたジャージを着ようと、まじまじと服の構造を見るとそれの胸元に名前が刺繍されていた。
「……成る程、あれがそうか」
人気がなくなった教室で魔王が呟き、モーゼのジャージをぎゅっと握り締めた。それの胸元にあった名前は『朝来野』―――タカシの想い人だった。




