【呼びつけるというか拉致】
【呼びつけるというか拉致】
「ワシを呼びつけるとは、平民のくせに大胆不敵なやつじゃのぅ」
「いやいや、こちらこそ穏便に済んでよかった。魔王の力とやらを使われるかもしれない、って怯えてたよ」
革張りのソファーに身を沈め、ゆったりとくつろぐ魔王がミツルのことを「食えぬ男じゃ」とにらんだ。
「とりあえず、はじめまして。タカシの友人が『甲藤ミツル』と言います」
「私がミツルの婚約者の日向アンナだぁぁあああぁあぁああっ!」
アンナの叫びに魔王が思わずたじろぐ。ミツルもここが気づかれるから、もっと小さな声で叫べと無茶な注文をする。
「ここはあんまり使われない応接室でね。職員室からも離れてるし、周りは特別教室だから人も来ない」
「逢引きには持って来いというわけだなぁあぁぁぁっ!」
「だから、大きな声出すなよ。少し静かにしてくれ」
魔王がアンナの叫びに眉をひそめ、ミツルと向き合った。
「それで? ワシを呼びつけた理由とは何じゃ」
「うん。タカシのことでね」
【ミツルの弁明】
「ほぅ。そういえば先ほど、家から出てゆけと言われ……ショックを受けた」
意外にもしゅんと表情を曇らせ、うなだれる魔王にミツルは驚いた。
「なんで、また高校に、しかもタカシのいる学校に入学したんだい」
ミツルは聞いておきながら、この質問のなかに答えがあることは察していた。
「うむ。ワシは少々ここでやっておかなくてはいけないことがある。その為に、1人でも出来ることじゃが、どうせならタカシをこき使ってやろうと思うてな」
タカシから聞いた通り、どうも素直とは言いがたい。いっそアンナくらいわかりやすくなってほしいところだと、ミツルは肩をすくめた。
「多少魔王の力を行使したが、それ以外は正規の手続きを踏んだのじゃ。タカシごときにあのように言われる筋合いはないっ」
魔王が思い出したかのように激昂するが、ミツルは平然と無視した。
「それは魔王さんも悪いな」
「何故じゃ。誰にも迷惑はかけておらんぞ」
「かけてる」
「誰じゃ」
「タカシ」
「じゃから、タカシの手をわずらわせず一切をワシの手でやったではないか」
ああ、わかってないとミツルはため息を吐いた。タカシが思うことは正反対なのだ。
「違うんだよ、魔王さん。タカシは、それがいやだったんだと思う」
「なに?」
魔王は理解不能という顔をしている。さすが異次元から来た魔王、いやこういう人はこちらの次元でもいるか。
「タカシはあの性格だから、魔王さんの身の振り方をずっと悩んでたんだよ。おばさんは気にしないだろうけど、ずっと家に置いておくわけにもいかないし、かといって警察で異次元の話をしたら笑われるだけだ」
アンナはミツルに言われた通りに口を閉ざして、何故か部屋の隅で小さくうずくまっている。ぷるぷる震えている様子はなんだか愛らしい。
「ずっと魔王さんのことを気にかけてた。それなのに、魔王さんはタカシに何の相談もなく高校に入学した。……正直、裏切られたような気持ちだったんじゃないかな」
「……タカシのやつ、本当にバカではないか。なんじゃ、それは」
魔王はミツルの話を聞いて、ぷぅとむくれている。その表情は制服を着ていても、確かに高校生には見えない。
「では、ワシにどうしろと言うのじゃ」
「さぁ。どうしたもんかなぁ」
ミツルは首をかしげて、困ったというポーズをした。魔王はむぅっとうなっている。
「でもさ、魔王さんがここに入学したのは少しまずかったろうな」
「まずいとはなんじゃ」
「いわゆる世間体ってやつだよ」
魔王はきょとんとした顔で、ミツルの顔を凝視している。部屋の隅にいるアンナのぷるぷる具合は先ほどの倍になっていた。
「健全な男子高校生の家に、同じ高校に通う同級生の女の子がいたらさ。まずいでしょ。同棲だとか、噂じゃすまない」
「ワシとタカシの間に何か起こるわけなかろう。タカシとワシの差は蛙と人間を比べるのと同じじゃぞ」
「うん。それでも世間は認めない」
「くだらん俗物根性じゃのぅ。よい。言わせておきたいやつには言わせておけ」
魔王はすっぱりと言い捨てると、ミツルはまずいと思ったのだが笑ってしまう。
「……ッ。あーあ、魔王さんは本当にいい性格をしてるよ」
「それは褒めてないな」
「褒めてる褒めてる。あー、おかしい」
ミツルは応接室の机に腰掛けると、魔王と向き合った。
「家を出ろ、っていうのはそういうことなんだ。勿論、怒ってることもあったろうけど」
「なるほど。まぁ、タカシの言いたいことは大体理解した。しかし、それを何故おぬしが語る?」
その指摘は尤もだ。ミツルは手のひらを魔王に向けて、やんわりと返した。
「今まで話したのは友人としての経験から、タカシはこう言いたいんだっていう推測。でも、9割方合ってると思う」
無愛想な友人を持つと苦労するよ、とミツルは軽口を言う。合わせて魔王もあきれ顔でため息をついた。
「やれやれ、他人に自分の弁護をさせるとは……」
「弁護って言うか、ね。これは俺の判断でそうしたまでで、タカシは関係ないよ。念のため」
「結果的にそうさせるよう、タカシが誘導したものじゃろう」
ミツルは降参、とポーズを取る。本人達は否定するだろうが、この似たもの同士にはかなわないと悟った。
「ところで、これから本当にどうする気だい?」
ここまで話したところでミツルは魔王に訊いた。




