【9月6日】
【9月6日】
「どうした、今日はえらく早いじゃないか」
ミツルは始業チャイム前にいるタカシをからかった。その本人はふてぶてしく、机に足を乗っけている。
「ああ、なんかな……いやな予感がしてな」
「何だよ。気になるな」
タカシはミツル達に魔王のことは話していない。話そうにも、どこから話していいものか判断がつきかねているからだ。
「それより、アンナはどうした」
「え、何のことだ?」
「……お前のどこがそんなに好きなんだかな」
「それは本人に聞いてくれ」
ミツルは深くため息を吐いた。実はこれで相思相愛なのだから、他人の恋愛というのはよくわからないとタカシは常々思うのだった。
「アンナは職員室だ。なんか用があるとかで」
「またお説教じゃないのか?」
「さあ。どうかな……」
タカシとミツルが噂をしていると、何とどうやら……本人のご登場のようだ。廊下側の窓ガラスがびりびりと響き、愛しい人の名前を絶叫している。今いるクラスメイトが避難する前に、教室のドアをそれこそ壊すほどの勢いで開けた。
「ミツルゥウウゥゥゥッ! 転校生が来るぞぉぉおおぉぉおっ!」
「へぇ」
アンナが入ってきた勢いによってぶわっと強風が教室内を吹き荒れるなか、ミツルは平然と返した。
「正確には転入生な。わかってるか?」
「そんなことはどうでもいいんだぁあぁぁああぁっ! 問題はこのクラスに来て、しかも女子生徒だと言うから不安なんだぁああぁぁぁああぁっ!」
要するにミツルが転入生に浮気するんじゃないかと、心配しているわけだ。相変わらずだな、とタカシは苦笑した。
「安心しろ。興味ない」
「本当かぁあぁぁああぁあぁっ! 大好きだぁああぁあぁぁ、ミツルゥゥウウゥゥッ!」
アンナがぐわっしと抱きしめようとするのをミツルは何とか避けようとしたが、コンマ1秒遅かった。衝撃と共に強く抱きつかれ、ミツルの骨がみしみしときしみ始めた。
「ぐぁ……」
「……っは! ミ、ミツルゥゥウウゥゥウッ! 死ぬなぁぁああぁぁあっ!」
「あーもー、どこかよそ行ってやってくれ」
タカシはそのバカップル漫才にうんざりしているようだ。そう言われると、アンナは素直に聞き入れ……ぐったりとしたミツルを引きずってどこかへ連れ出そうとする。
「なぁーにを騒いどるっ!」
担任教師ががらりと普通にドアを引いて入ってくると、アンナのことをにらみつける。
「またお前か。いい加減にせんか。とっくにホームルームは始まっておるぞ。チャイムの音が聞こえなかったか」
「う……すまん、ミツルゥウウゥ、また離れ離れになるが……な、な泣くんじゃないぞぉぉぉぉおぉぉ」
「泣いてるのはお前だろ」
タカシの突込みなど聞かず、アンナは乙女ちっくな走り方で砂ぼこりを巻き起こして教室を出て行った。もしミツルと同じクラスにしていたらと思うと、教師達のナイスな判断に拍手を送りたくなる。
「やれやれ、ではホームルームを始める」
ミツルはよろけながらも自分の席に着き、机の上に突っ伏した。いつもならすぐ回復するのだが、今回のは相当キツかったらしい。
「最初に転入生を紹介する。入りなさい」
担任教師がそう促すが、誰もドアを開けて入ってこない。教室内がむやみにざわつく。
「入りなさい」
「ふん。ならば、おぬしがドアを開けよ。ワシの手をわずらわせる気か」
がたっとタカシが思わず椅子を引いた。担任教師はあきれて、そのドアを引いてやった。
―――冗談だろ。
開けてもらったドアから入ってきたのは見覚えのある顔と制服だった。しかし、問題なのは見覚えのある顔と制服が、何故一緒になっているのかということだ。
「このたび、平民の学校に入学してやった魔王じゃ。以後、宜しく尽くすように。のぅ、平民共」




