【スイカ】
【スイカ】
「アイスじゃっ」
風呂から上がった魔王が居間へ突撃、開口一番にそう言った。タカシはぷっと種を吐いてから返した。
「早くないか?」
「そんなことはない。きっちりと風呂に入ってきたぞ。さぁ、アイスをよこせ」
ミカコはよいしょっと立ち上がり、台所へアイスを取りに行った。魔王は自分の席にぺたんと座り、まだかまだかとそわそわをしている。
「アイスはずっと出しておくと溶けちまうからな。待ってろ」
「うむ。……ところでタカシが食しておるのは何じゃ?」
魔王はタカシの手とちゃぶ台の上に載ったくし切りにされた何かに興味を抱いたようだ。タカシは果汁にまみれた口をぬぐうと、また口から種を出した。
「これはスイカっていうんだ。でかいけど果物だぞ」
「ほぅ。これは面妖な……緑と赤の対比が見事じゃ」
「そーだな。今年のはよく出来てる。甘い」
自然が生み出す見事なデザインに感心し、タカシの最後の言葉に関心を示す魔王にミカコが台所から戻ってきた。
「はい、魔王ちゃん。アイス」
「ミカコ。これも食してみてよいか?」
そう訊ねる魔王にミカコは両腕でバッテンマークを作った。
「ダァーメ、ね」
「何故じゃぁ!」
「食後に冷えたスイカとアイスなんて組み合わせ、腹壊すに決まってんだろ」
たしなめるタカシはぷぷっと種を出し、またしゃくっとひとかじりする。魔王はその動作をじっと凝視している。
「どうする? アイスはやめてスイカにする?」
「う……」
ミカコの提案に、魔王は既に涙目になっている。ここで情に流され負けてしまい、体調を崩されても困るのだ。
「どーすんだ。早くしないとアイスが溶けるぞ」
「ぐっ……くぅ〜!」
魔王はぷるぷると震える手で、ミカコの手からアイスを取った。
「むぅ、うまい」
「そりゃ良かったな」
魔王はアイスをかじりながら、チラッチラッとタカシの手の中のスイカも見る。どうしても気になり、見てしまうようだ。
「こらこら、魔王ちゃんは明日よ」
「そうそう。取捨択一。二兎追うものは一兎も得ず」
「なんじゃ、それは。タカシのくせに生意気じゃぞ」
どうやら知らない日本語もまだあるらしい。タカシは余裕顔で2つ目、いや食べ終わった皮を見る限りだと4個目に入るようだ。
「く、食いすぎじゃあ! ミカコ、ミカコォッ」
「おれはいーんだよ。腹、壊さないから」
「はいはい、魔王ちゃんの分はとっておくから」
「絶対じゃぞ。絶対じゃぞっ」
こうして必死に駄々をこねる姿は、魔王の威厳も何も無い。ただの子供だ。
―――どうすんだかな、これから。
タカシはぷぷっと種を吐き出し、あどけない魔王の横顔を眺めるのだった。




