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【ふん】

 【ふん】

 「……こちらの次元にも月はあるのじゃな」

 魔王は窓辺に寄りかかるようにして、ぼんやりと輝く月を見ていた。昨晩は不覚にものぼせてしまい、そのまま寝込んでしまったせいでここから月が見えることを知らなかったのだ。

 「隣り合った次元の相違……か」

 向こうとこちらの差に混乱しそうになるが、今はこうして落ち着いて月を眺められるようになった。ここに来る前はそのような余裕がなかった。

 「それも……」

 「なにたそがれてんだ」

 びくんと魔王はその声に反応し、とっさに振り返った。それから反射的に魔王の力で、声の主を床に叩きつける。

 「ってぇな。なにすんだよ!」

 「誰が入室を許可したか。この部屋は現在魔王のものであり、そのなかの支配権は得ている。故に存分に魔王の力を使えるというわけじゃ」

 声の主、タカシが()えるが魔王はつーんと無視を決め込んだ。いきなり入ってきたそちらが悪いのであって、こちらに非はないと言わんばかりだ。

 「あーったく、風呂が空いたから入れって言いに来たんだよ」

 「そうか。では、共に」

 「行かねーぞ。もう入った後だからな」

 タカシの反論にむくれ、魔王はその力を強める。変な体勢になっている上に、まるで相撲取りがのしかかってくるような圧力だ。いつまでも耐えられるものではないだろう。

 「ぃいーからっ、さっさと入ってこいっ」

 「むぅ」

 タカシがなかなかネをあげないので、魔王も諦めたらしい。これ以上やると、タカシの身体がどうかしてしまうかも……というささやかな配慮だろうか。

 「あーったく、ひどい目にあった」

 「反省の色が全く無いのぅ。さ、お供せい」

 「おれは声をかけに来ただけだろーがっ」

 両者のにらみ合いがまた始まるが、すぐにタカシがそらしてしまった。

 「やめやめ。疲れるだけだ。魔王、1人でちゃんと風呂入れたらいーもんあるぞ」

 「いーもんとは?」

 やはり食らいついてきた魔王にタカシはにやりと笑った。

 「アイスだ」

 「なぬっ!」

 「それも風呂上がりのは格別にうまい」

 「む、むぅ!」

 魔王がじたばたと足踏みをし、もう待ちきれないというイイ表情をする。タカシは箸を置いた時に、魔王が天井に突き刺したアイスの棒を見たのだ。

 「どーする」

 「タカシなんかよりアイスじゃ!」

 迷わず即決すると、魔王はどたばたと階下へ降りていった。これはこれでむなしいというか、腹立たしいものがある。

 「ま、いーか」

 タカシは気にせず、慌ただしい魔王の後を追いかけるように階下へ降りた。

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