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【野菜の日】

 【野菜の日】

 トライアングルについたタカシは一呼吸置いてから、汗を一通りぬぐってから店の扉を押して入ろうとする。しかし、この気温だと汗はぬぐってもすぐにじむ。野菜の箱を抱えて、早々に入ることにした。

 「いらっしゃーい。……あれ? 麻島君?」

 同級生のカナが、家庭的なエプロンをつけたウエイトレス姿で出迎えてくれた。不意打ちを食らったタカシは視線をそらし、暑そうにばたばたと片手で襟を上下させ冷気を呼び込む。

 ―――私服姿見んのも久し振りだな、そういや。

 今の時間は客もおらず、シェフもどこかに出払っているようだ。つまり、タカシとカナの2人きりらしい。

「野菜届けに来た」

「そっか。ありがと。お父さん、今出てるから代わりに確認するね」

「おう」

ぶっきらぼうにタカシはそう返し、片手で持っていた重そうな箱を床に下ろした。カナはかがんで、床に置かれた箱の中の野菜と注文伝票を見比べる。野菜の受け渡しはこの店には裏口などないから、いつも表口から入るよう言われているのだ。

―――ま、カナなら大丈夫か。

届けられた野菜の確認作業はシェフが自らカウンターの奥や調理場でやるのだが、今の状況では仕方ない。注文内容と配送物の確認、痛んでいるかどうかぐらいはカナでもわかるはずだ。

「……うん? なんか多いよ、これ。頼んでないやつとか頼んだやつが倍近くありそう」

「バッカ、今日は野菜(831)の日だろ。サービス、サービスッ! 文句あんのか!」

「そ、そうなの? へぇー、初めて知った。わかった。ありがとう。きっとお父さん喜ぶよ」

その言葉と微笑みにタカシはなんともいえない複雑な表情を見せるが、カナは気づかない。

「そういえば、麻島君宿題終わった?」

「あ、あ……いや……」

タカシが言おうとして言えずに終わりそうだったことを、カナはあっさりと言った。突然の言葉に、うまい言葉が浮かばないようだ。

「まだなの?」

「あ、ああ……」

「ふーん」

他に何か言うことがあるだろうに、タカシは言葉がせり上がっても途中で詰まってしまう。涼しい店内だというのに、やけに汗が流れる。

「じゃあ、頑張ってね」

「おう」

タカシはカナに見送られ、ぎくしゃくと両手足をほぼ同時に前へ出しながら店の外に出る。扉が閉まるのと同時にドアベルがチーンと鳴った。

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