【呼び込み】
【呼び込み】
「じゃあ、私は夕飯の支度をしてくるから。忙しくなったら呼んで」と、ミカコは笑いながら奥へ引っ込んでいった。
「うむ。朝食は甘いものを期待しておるぞ」
「だから、違うってーの」
タカシの突っ込みを無視して、魔王は張り切っている。ミカコも魔王を警察にどうとかは考えていないのだろうか、とふと思う。
―――まさか、このままずっと置いておくわけにもいかねぇもんな。
どこまで考えてくれているのか、タカシにはさっぱり理解出来ない。そもそも魔王のことも完全に信用したわけでもなかったから、頭と問題の両方を抱え込んでいる状況だ。
「さぁこの小さき店に立ち寄って見るがよい。この魔王様が直々に立ち会おうというのだ。へいみ」
魔王の呼び込みにタカシは口を手で無理やり塞いで、それを止めた。もはやどこから突っ込むべきかが悩みどころだが、魔王はやはり不満そうだ。
「何がいかんと言うのだ」
「ったく……」
手伝いを頼んだのは失敗だったか。いや、言い出した手前、もうやらなくていいとも言いづらかった。
「もっと普通でいい」
「普通の定義を教えろ。ワシはワシなりに与えられた業務をこなしているではないか」
「……『いらっしゃい、いらっしゃい』でいい」
「なんじゃ、つまらん」
魔王がふっと息を吐き、その顔を横をそらす。あからさまな態度からさっきの呼び込みは多少わざとだったのだろうと察するが、これ以上は何も言わないでおいた。
「そこな者、どれ、ひとつ買ってはいかぬか? 損はさせぬぞ!」
タカシの言うことなどまるで無視した呼び込みだが、さっきのものより随分いい。魔王の容姿と口調もあいまって、人目を引いているようだ。
「はは、こんなかわいらしい子がこの店にいたのかい」
「誰だい、この子。新しいバイトさんかい」
わいわいと魔王を取り囲むように人が集まり、一気ににぎやかになる。こういう人だかりが何よりの呼び込みになるのだ。
「た、タカシ! 何とかせい、息苦しくてかなわん」
じたばたとする魔王が面白く、タカシはしばらくそれを横目で見守ることにした。人をひきつけてくれている間にこちらは商売をするのだから、いちいち助けていられない。
「ま、頑張れや」
タカシは愛想笑いをしつつ、お客さんにおつりと商品を渡した。




