【人違い注意】
【人違い注意】
「なぁに沈んだ顔してんだよんっと」
背後からいきなり背中を叩かれ、タカシが顔をしかめた。
「ってぇな、ハヤミ」
「おぉ、顔見なくてもわかるんですねっ」
「こんなことすんのはテメーしかいねーよ」
タカシの言葉に、その横で軽快に笑う女子生徒は1年生の駿河ハヤミだった。
「いやぁ、照れますねっ」
「ほめてねぇよ。それよか、お前は……朝練か」
「はい、今してるとこです」
タッタッタッタとテンポよく足踏みをしながらハヤミは答える。鞄も持たず既にジャージを着ているところから察するに、いったん学校に行ったのだろう。それから朝練としてここら辺を走り回ったようだ。
「だって、陸上部ですから」
「あーそうかい。勝手にやってろ」
「はい、やってます」
にこにこ笑うハヤミは本当に楽しそうだった。
「それより、麻島先輩こそ遅刻しますよ?」
「あ?」
「ほら、始業式まであと7分」
ハヤミは自前の腕時計を見せると、タカシは目を見張った。余裕があったと思っていたのだが、あのバカップル漫才につきあったせいかもしれない。もしかしたら、急にあの2人が走り出したのもこの所為だったのか、とも思える。
「げ」
「このままじゃ間に合いませんよ」とハヤミは首をかしげる。確かにタカシの足では間に合いそうにない。
「あ、じゃあ引っ張ってってあげますよ」
「は」
ハヤミはタカシの右手を取ると、本当にそのまま走り始めた。力も強く、こうなるとつられて走らざるをえない。あまりの勢いにつんのめりそうだった。
―――なんで、おれの周りにはこんなのしかいねぇんだよっ。
タカシはぐいぐいと引っ張られながら、そう恨み言をつぶやいた。




