【随分と話し込んだ】
【随分と話し込んだ】
「さて、帰るとするか」
魔王が何の未練もなく、さっさと麻島青果店から歩いて離れていく。勝手に現れたかと思えば、今度は別れもぞんざいに立ち去る気らしかった。
「お前、本当に何しに来たんだ? 営業妨害か」
「少し昔話をしたかっただけじゃ。茶をすすってな」
タカシの方を振り向きもせず、魔王はそう応えた。タカシは微苦笑した。
「年寄りくせぇなぁ」
「ふん。平民のおぬしに言われたくないわ」
あの頃とまったく変わらない姿で魔王が言う。むしろ魔王の年をとった姿が想像つかない程だ。
「……わざわざ親父の話、ありがとな」
「おぬしは消えてくれるなよ」
左足に重心をのせ、魔王はくるりと回って一瞬だけタカシと向き合った。
「では、ツレとミカコによろしくな」
「ああ。伝えとくよ」
高校卒業とほぼ同時期にタカシが結婚すると決まった時には、誰もが驚いていた。不良にありがちな出来ちゃった結婚ではないが、子供はもう2人もいるところにまた歳月を感じる。
「大事にしろよ。タカシには出来すぎた、不相応な相手じゃからな。いつ愛想つかされてもおかしくはないぞ」
「うるせーよ」
タカシは口を尖らせ、そう返した時には……魔王の姿は往来のどこにも見えなくなっていた。
「無駄な力使ってんじゃねーか。自重しろよ」
悪態をつくように、タカシはそうぼやいた。そして、何故か客足は戻らないままだ。




