【他に話すことは】
【他に話すことは】
「あったか?」
「ねーよ。こっちの都合も考えねーで、いきなり来やがって」
タカシがぶつぶつと文句を言うと、魔王は反省の色を見せることなく胸を張った。
「ワシは魔王じゃからな」
結局、そういう魔王自身も根本は変わっていなかった。タカシはため息さえ出なかった。
「第一、暇そうにしてるではないか」
「うるせーよ」
考えてみればおかしな話だ。この地球を支配している存在がただの八百屋にいるというのに、誰1人として集まってこなかった。それとも、もう魔王の珍しさはパンダ以下なのだろうか。
「ま、それもワシが少し人の流れを操作したからなんじゃが」
「営業妨害じゃねーか」
通りで客が来ないわけだ。魔王はゆっくり話がしたかったからじゃ、と言うが麻島青果店としては死活問題だ。
「ミツル達にも会いたかったのぅ」
相変わらずマイペースに好き勝手ばかり言ってくる魔王に、大人になったタカシは自らを抑えた。
「私以外、他のヤツらは今はいねーよ」
「そういえば、そうじゃったのぅ」
魔王は残りの緑茶を飲み干し、底にたまった茶っ葉の苦さに顔をしかめた。
「懐かしくは思えんがな。なにせ、ワシの寿命は1000年じゃ」
超寿のぶん、10年前以上の記憶もそれだけ鮮明におぼえていられるのだろうか。それでも魔王の目は少し遠くを見ていた。
「……お前はあの時間を過ごすことに意味があったのか?」
高校を卒業して、魔王はおよそ4ヶ月足らずで日本を制圧した。その後、1年と半年ほどで世界の8割の国々を支配下に置いたのだから恐ろしい。
「意味、か」
そんな魔王だから、高校に行く意味などなかったのではないかとタカシは思う。逆にタカシやミツル達のような行動を制限する足かせを作ってしまっただけのような気がしてならなかったのだ。
「あった。確かにあった」
「そうは思えん」
魔王は確かにそうつぶやき返したが、タカシはいぶかしんでいる。事実、そのおかげで何十回も殺し屋やその類の者に殺されかけ、そのぶんだけ魔王達に救われたのだ。そう思わない方がおかしい。
「それは心外。人を行動で判断するな」
「普通は外見だろ」
タカシの突っ込みを無視して、魔王は店の壁をなでるように触れた。
「しかし、まぁ」
魔王が触れることで、壁のひび割れていた箇所が修復されていく。今や世界全土で魔王は、平民からのエネルギーを受けてこの魔王の力を使うことが出来る。
「一時は潰れかけた店を、よくもまぁ立て直したものだじゃのぅ」
触れていた箇所だけ新築同然の色合いや状態になり、なんとも目立つ。タカシが全面的にやれ、と言ったが「平民からの税金を無駄遣いすれば怒るのに、平民からのエネルギーは良いのか」と返されてしまった。
「ま、大したものじゃ」
「まーな」
「おぬしは褒めてないぞ」
「殴るぞ」
タカシが真顔で握りこぶしを固めると、魔王は「冗談じゃ。気にするな」とあっさり流した。




