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【事実は小説より奇なり】

 【事実は小説より奇なり】

 「そうそう、もうひとつ思い出したぞ」

 「んだよ」

 子供のようにはしゃぎながら、魔王はタカシに言ってやった。

 「何故、ワシは小説がつまらなかったのか」

 「はぁ?」

 今まで座っていた魔王が立ち上がり、改めてタカシの方を向いた。

 「小説は作家が生み出した登場人物から成り立ち、それらに合わせたような話が進んでいく。伏線も出来る限り回収されていくのぅ」

 それはどんな作品にでも言えることであり、基本中の基本だ。魔王が読んできたものの殆どがそれに当てはまった。

 「しかし、現実に生きるもののように気まぐれや変化を殆ど見せぬ。出てくるものの今までのすべてが語られることはまずない」

 魔王は眉を少しだけひそめ、つまらなさそうに言い張った。

 「予定調和。どんな結末であれ、(しま)いには必ずよく出来た話になる」

 いかに話をうまく、きれにまとめるかでその作者の技量と売り上げが決まるといっても過言ではない。更に日本人は娯楽の他に感動か読者が知りえなかった情報や為になる何かを求める傾向にあり、作家に責任感を持たせるものじゃと魔王は長々と分析する。

 「しかし、作家の思い通りになる小説とワシ達の現実は違う。登場人物も展開にも終わりがない。意味があるものだけとは限らず、いつまでも先が見えない」

 楽しそうに、雄弁に語る魔王をタカシは面倒臭くて止める気が起きなかった。そういった長話のなかで眠くならなくなっただけ、高校時代から成長したといえる。

 「結末を先にのぞくことも出来ない。自分自身を置いて勝手に先へ進む。誰かが死んでも、現実は止まらない」

 魔王はにやりと笑った。

 「誰にも文句がつけられない。現実は無責任じゃからのぅ」

 結局、理不尽も不条理も納得して進んでいくしかないのだろう。何が起こっても、最後に決めて実行するのは自分自身であり、その自らは詰まるところ作家でもあり登場人物でもあるのだ。

 「じゃから現実は面白い」

 小説は決して現実を越えることなく、どれだけ趣向や設定を凝らしても現実の域を出ない。現実以上に面白くは決してなりえない。

 「そう思うワシには小説がつまらなくて当然じゃったというわけじゃ」

 そこまで聞いてやったタカシは、ぽつりとつぶやくように言った。

 「というより、異次元人に地球を支配されたなんていつのSF小説だ」

 「今時、もうはやらんな」

 「お前が言うな」

 「そうじゃった」

 これが現実というのだから、なるほど、事実は小説より奇妙でどうしようもなかった。

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