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【そしてキミヤは】

 【そしてキミヤは】

 「行くのか」

 「ああ」 

 キミヤは土手をのぼり、再び道の方へと歩いて戻っていった。魔王もそのあとを追うが、止める気配はなかった。

 「……止めないのか」

 「わからん」

 魔王は正直にそう答えた。タカシやミカコのことを考えれば力ずくで止めるべきなのかもしれないが、それがタカシやミカコが望む・正しいこととは限らなかった。

 「いつだって正しかったのはお金も権力も持たず・思わぬ、世間を知らない子供と童心にかえった老人だ」

 キミヤは魔王に背を向けたまま、その言葉を贈った。

 「そして子供には老人にはない可能性と未来がある」

 振り返らず、キミヤはその先へ歩みを止めなかった。魔王はただ立ちつくし、それを見送っていた。

 「魔王である君には気の遠くなるほど長い未来が待っている」

 左足に重心をのせ、キミヤはくるりと回って一瞬だけ魔王と向き合った。

 「それに腐らず、思うように生きるといい。それが正解だろうから」

 魔王は再び歩き出したキミヤに追いつかない程度に歩き始め、そのあとに続く。キミヤは静止を求めるわけでもなく、ピンと右手の人差し指を立てて後ろの魔王に見せた。 

 「それともうひとつだけ。もし君の知る者達が勇者というなら……それは魔王ではなく、今のどうしようもない世の中に対し立ち上がろうとする者だと思う」

 キミヤは声に出さず、表情だけで笑った。それは後ろを歩く魔王にでも、その雰囲気でわかった。

 「嬉しいことだ」

 それと同時にキミヤは肩を落とし、少しだけ視線を上にした。その先に何が見えているのか、魔王とは違った景色が見えているに違いなかった。

 「今を変えようとし、変えるだけの力と思考を持つ子供を若者へと育み、導いてやるのが大人の役割だというのに……情けない限りだ」

 子は親の背中を見て育つとよく言うが、最近ではろくな親がいない。キミヤは俺がその最たるものだが、と自嘲した。

 「そう悲観することではない。良い教師はいないこともなし、おぬしらだって立派なものじゃぞ」

 「反面教師でか」

 魔王は子は親がいなくても勝手に育つものじゃ、と微苦笑する。キミヤはそれもそうか、と同意した。


 【移り行く世代が時代の節目】

 「……いつからだろうな。子供の語る正義が大人の騙る正義になってしまうのは」

 キミヤがそう語りかけると、魔王の足が止まった。構わず、キミヤは歩き続ける。

 「また寄るよ」

 「次からはこまめに連絡を入れろ」

 魔王の言葉に、別れに手を振っているキミヤは淡々とした口調ではっきりと言った。

 「それは難しいな。音信機器のないところも多いから」

 もう魔王のことを振り返ることもなく、キミヤの姿は明るい闇夜にまぎれつつあった。

 「タカシとミカコのこと、よろしく頼むよ」

 「ケーキ3つぶんの礼だけ、よろしく頼まれてやろう」

 それ以上のことになれば、あとで請求を回すぞと魔王はおどけて脅した。キミヤは笑うような高い口調で、短く返した。

 「充分だ」

 それからキミヤの姿を見た者はいない。魔王も、誰1人として見るものはいなくなった。

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