【いただきますとごちそうさま】
【いただきますとごちそうさま】
「ま、食え。残さずな」
タカシがどっこいしょと、自分の場所に座る。魔王も自分の席だと思われる位置に腰を下ろすと、ミカコが茶碗にご飯をよそってくれる。
「おお、これが白米とやらか!」
「知ってんのか」
いや、それにしてはニュアンスがおかしい。魔王にツッコんで聞けば本や辞書などの文字媒体とそれらしきものを指し示している口の動きを真似ることで日本語を覚えたため、実物を見て覚えたわけでもないらしい。
「ずいぶん無茶苦茶な覚え方をしたもんだな。いや、それでそこまで話せるのは大したもんだ」
「ふん。当然じゃ。頼る者などおらんからな。すべて1人でこなしてやったわ」
魔王はぎゅっと箸を握り締め、どすっとご飯茶碗に突き刺した。それでは仏様のお供えだ。
「箸はこう持つんだ」とタカシが手本を見せると、魔王は5秒ほどその動きを見ただけでマスターしてしまった。この学習能力には感服する。それから魔王はとりあえずすべての皿のおかずを一口ずつ食べ、その表情をころころ変化させたかと思うと箸を置いてしまった。
「どーした」
「この甘いのと白米は食べてやろう。しかし、他は駄目じゃ」
「甘いのってにんじんのグラッセのことか。おいおい、メインはハンバーグだぞ」
タカシは魔王のことをじっと見た。
「アレルギーの問題でもあるのか?」
「ワシの嗜好の問題じゃ。甘いのだけもらう。他は食わぬ」
「そんなわがままは許さん」
タカシは魔王の前に置かれたご飯も味噌汁もすべてお盆に載せ、立ち上がる。その行動に驚き、魔王は慌てた。
「ま、待て。ワシの食事をどこへ持っていくんじゃ」
「食わないんだろ」
「……っ! 白米とにんじんは置いていって構わぬ」
「駄目だ」
「ワシは魔王で客人じゃぞ」
「ああ、そうだな」
魔王は抗議としてか、ぎっとにらんでその伸ばした足や手をばたつかせる。
「そんなことしてもダメだ。涙目も効かん」
タカシはあくまで非情だ。魔王はミカコに助けを求めようとしたが、その態度はタカシとほぼ同じだった。
「おぬしの方がよほど横暴じゃ」
「……いいか。この野菜は農家の人が丹精をこめて作ったもんだ。俺たちがうまくて栄養のある野菜を食っていけるのはその人たちがいるからだ。感謝もせず、それらを無駄にするようなこと、馬鹿にするようなやつに食わせる飯はウチにはない」
「目の前にあるじゃろ」
「やらん。全部、俺が食う」
タカシの言葉に魔王はにらみ続け、負けじと立ち上がった。
「……」
「魔王と平民は、持ちつ持たれつの関係って言ってたな。お前に魔王の経験が無くても、お前の爺ちゃんを見てそう思ったんだろ」
「む」
魔王は祖父のことを引き合いに出され、その言葉を素直に肯定する。
「そこに感謝の気持ちは生まれなかったと思うか。お互いが利用しあっていただけの、本当にそれだけの関係だったと思うのか?」
「う」
「違うだろ。そうでなきゃ、今までお前の爺ちゃんが愛されてたわけねぇだろう。きっと、一方的じゃなかった」
魔王はタカシをじぃっとにらみ続けている。その視線の先には温かな食事もあった。
「……」
「……」
「食べる」
「ん」
魔王はぽつりとそう言うと、タカシも小さくうなずいた。
「食べるぞ。ワシはハンバーグもにんじんも食すぞ」
「そうか。なら、許す。悪かったな」
魔王がどかっと乱暴に腰を下ろすと、それを一言また注意してからタカシは食事を並べ直した。
「アレルギーの問題なら目をつむるが、好き嫌いは認めん。つーか、ハンバーグが嫌いなガキなんて初めて見たぞ」
「ったく、あんたも乱暴者だねぇ」
ミカコはそう笑うと、タカシはじろっとにらみつけてから、ようやく自分の食事にも取りかかった。魔王はその横でハンバーグを眉をひそめながら、むぐむぐと食べている。タカシの無愛想な顔とあいまりおかしくてたまらないのか、ミカコは笑いっぱなしだ。
魔王はハンバーグを先に食べ、ごっくんと飲み込んだ後にぶつぶつと文句を言った。
「ぬぅ……おぬしのそういうところだけはワシの祖父によぅ似ておる」
「……そうか」




