【紅茶を注ぐように】
【紅茶を注ぐように】
ミツルは自らの部屋を見回し、ひとつ息を吐いた。
「特にこれだけ注いでくれるんだ。少しくらい感じるところがあるんだろうってわかるよ」
「だから贅沢者め、と言うたんじゃ」
「ははッ」
紅茶のカップを置き、魔王は蜂蜜を更に足した。もう溶けきらずに底の方で沈殿している辺り、蜂蜜入りの紅茶ではなく紅茶風味の蜂蜜といった方が近いだろう。
「しかし、これだけの部屋をぽんと出すとはミツルの両親は何をしておるんじゃ」
「マンション経営。ていうか、この部屋もそう」
ミツルが床をなで、魔王の方を見た。その視線に気づいているのかいないのか魔王はパイプベッドに腰かけたまま、のんびりと茶をすすっている。
「富豪か」
「貧民と二極化させるなら、その分類に入るね」
その言葉はいやみったらしくもなく、ミツルは微笑んでみせた。
「これだけ格差があるのか」
「そういうものだよ。世の中って」
「知ったような口をききおるのぅ」
「魔王さんこそ、世の中を甘く見てるでしょ」
ミツルがカップを床に置き、よいしょっと小さく言って立ち上がった。
「両隣と真下の部屋も俺のもの。ていうか、あえて空き室のままにしてくれてる」
左右と下方に指を差し、魔王にわかりやすく示した。
「なんでかわかる?」
一歩だけ、ミツルは魔王に歩み寄った。
「俺が何しようと、誰にも聞こえないようにって配慮だよ」
魔王が紅茶を飲み干し、カップを床に置いた。その瞬間にミツルは魔王に迫り、押し倒した。
「こんな風に」




