【特に大口を開けているわけでもなしに】
【特に大口を開けているわけでもなしに】
魔王は切り分けたそれをまるで吸い込んだかのように、一口でおさめた。それを間近で見たタカシは気持ち悪くなった。
「果物は安物の缶詰ではないが値が張る一級品でもない。生クリームの味はまぁまぁ。カステラに似たスポンジは正直いまいちじゃが、なかのあんこは絶品じゃな」
一息にそれだけ言うと、魔王はふぅとひとつ息を吐いた。ミカコその食べっぷりに感心している。
「毛の生えた素人が作ったにしては上出来じゃが、売り物にはまだならぬかもな」
魔王は残りもきれいにたいらげ、いれたばかりの緑茶を飲んだ。
「しかし、洋菓子職人としてあんこが一番うまいのは微妙じゃな。いっそ和菓子職人への転向を勧めようかのぅ」
「辛口だねぇ」
ミカコがすると、魔王は緑茶を味わいながら返す。
「褒めるところは褒めておる。それ以上に何かいるか?」
きっぱりと言い捨てる魔王に「ないかもねぇ」とミカコが苦笑しつつ、席をはずした。それでも魔王は言葉を続けた。
「世辞か。真に上を目指そうと思うものには妨げにしかならぬぞ?」
ちらりとタカシの方を見て、魔王は湯飲みをちゃぶ台の上に置く。
「ましてや明確な目標を持つなら尚更のこと。それを越えることでしか満足は出来ぬよ」
魔王は席から立ち上がると、ミカコが入れ替わりでタカシ達の分のケーキをが入った紙箱と皿を持ってきた。
「ごちそうさま。先に風呂へ入らせてもらうぞ」
そして「風呂上りに残りのケーキを食うかのぅ」とつぶやいた。それを聞いて食べすぎじゃないか、明日に回したらどうかとミカコが提案すると魔王は力説した。
「ワシは自分の体調管理が出来ない子供ではないし、何より生菓子じゃぞ。その日の内に食わねば味も質も低下してしまうではないかっ」
「そうかい」
ミカコは苦笑するしかなく、魔王は駆け足で風呂場へと向かった。タカシもその後に続くように立ち上がった。
「タカシ。ケーキは?」
「明日食う」
それだけ短く言って、タカシは本当に自分の部屋に戻っていった。




