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【気が済んだのか治療が終わったのか】

 【気が済んだのか治療が終わったのか】

 技をかけられ始めて15分を過ぎた頃合に、彼はゆっくりとタカシの四肢を解放した。その時、魔王が舌打ちしたのを2人は聞き逃さなかった。

 「具合はどぉ?」

 「どうってことねぇよ」

 ようやく解放されたタカシは肩をぐるぐると回してみるが、どこもきしんだり痛んだりすることはなかった。手加減なしに見えたものだが、絶妙な力加減がなされていたのだろう。

 「アマチュアにしてはやるのぅ」

 「良い子は真似しちゃ駄目です。危険だからね」

 彼がふふんと得意げに言っているらしいが、再び陰気をまとい始めたのでそうは聞こえない。むしろ「だから、自分は悪い子なんです」と、してもいない謝罪に聞こえてくる。

 「あんまり重いものとか持ってひじに負担かけちゃ駄目ですからね。腰も若い人でもクるんだから」

 「八百屋やってんだ。かかって当然だ」

 激しい二面性の持ち主というよりも別人格といっても差し支えない彼にタカシは憮然として答えた。

 「それと首の辺りもゆがんでたけど、なにかありましたか?」

 「……」

 「気をつけねばな。タカシ」

 いけしゃあしゃあと言うのがその原因なのだが、注意を促す彼の横に立ってちゃっかり便乗している。

 「ぁれ」

 そこでようやく気づいた、いや聞くタイミングと思ったのか彼がタカシの傍まで寄り、耳打ちして聞いてきた。

 「ところで、あの子は誰なの? 妹はいなかったし、麻島くんの彼女?」

 「いや全然」

 素っ気ないタカシの返答に、彼は「聞いてしまってごめんなさい」と言わんばかりに腰を引かせた。

 「そ、そうですか。いや……いい骨格してるなぁって思いまして。ゆがみもないし、理想の女性ですねぇ」

 「思い直せ」

 両手の指を絡め、不気味かつ乙女チックにもじもじとする彼をタカシは追撃の「うぜーからやめろ」で一蹴した。

 「……あ、でも、骨も筋も真っ直ぐすぎます。整体のしがいがないや」

 「そこかよ」 

 「で、料金なんだけど」

 あきらめるのも早ければ立ち直るのも早かった。いじめられっこ時代は彼を少しだけ強くしたようだった。

 「10円やる」

 「ひどい」

 口ぶりや手のひらを返すような料金請求から、彼はすっかりタカシ専属の整体師気分でいるようだ。

 「頼まれもしねーのに無理やり来て技かけて金をぶんどるってのはどういういじめだ」

 「がきのおつかいじゃないんだよー。せめて100円」

 泣き言のように言う彼の姿はタカシに技をかけていた時とはうってかわって、本当に情けないものだった。これで同一人物というのだから、信じがたいものがある。

 「もう勝手にやっておれ」

 つきあうのに飽きたのか、魔王は2人を見捨ててさっさと部屋から出て行った。

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