【それは一瞬の出来事だった】
【それは一瞬の出来事だった】
「がっ」
「おとなしくしてねぇ。ゆがんじゃうから」
「ッ!」
土下座の体勢から蛙のように飛び跳ねたかと思うと、そのままタカシに覆いかぶさるように組み敷き、四肢を抑えて鮮やかに関節を締めあげた。魔王はあっけに取られている。
「はい、これが海老固め」
「いきな」
「脇固め」
タカシは為すすべもなく、豹変した彼にされるがままに連続して技をかけられている。それを見て、魔王は淡々とつぶやいた。
「楽しそうじゃのぅ」
「そぉ?」
誰が見てもその通りだろう。彼はタカシに技をかける瞬間から今までまとっていた陰気は吹き飛ばし、生き生きとした表情を見せている。
「おぬしとタカシは友人か?」
「今はそんなようなものかも」
「昔は?」
彼は爽やかな笑顔で、魔王に告げた。
「いじめっこといじめられっこの関係」
「ほぅ」
「ぁ、ボクがいじめられっこで、麻島くんがいじめっこね」
そう言うものの、今の2人の状態や体勢からはそうは見えなかった。今現在、明らかにいじめられているのはタカシの方だった。
「誰にだってあると思うよ。見て見ぬふりとか、ささいなことじゃんと思うものみんなそうだし」
物憂げな表情で、彼はしんみりとそう言った。その時に出来た傷は早々に癒えるものではないだろう。
「タカシがいじめか。不良らしいのぅ」
「でも、おかげで今はこんな関係」
ぐいっとタカシの腕を引き、更にきつい体勢へともっていく。タカシの表情がゆがみ、必死で堪えているようだ。
「逆転したのか」
「うぅん。恩返ししてるんだ」
「それはいいことじゃのぅ」
「だよねぇ」
彼と魔王ははははっと笑った。笑ってないのはタカシだけだ。




