【人間ならちょっと異常なくらいだが、魔王という基準ならひかえめ】
【人間ならちょっと異常なくらいだが、魔王という基準ならひかえめ】
「本当にケーキが好きなんだ」
「うむ。甘いものは大好きじゃ」
何度もうなずく魔王に、ゲンタは小首をかしげ、それから奥の冷蔵庫から白い紙箱を取り出した。
「こんなんでよければあげるけど?」
「む」
ゲンタがそのふたを開けて見せると、魔王の目の色が変わった。タカシものぞきこんでみると、紙箱のなかにはフルーツののったケーキが入っていた。
「俺の試作ケーキなんだけどな。味見したから正確にはホールじゃないけどサ」
確かに1ピースぶんほど欠けているが、魔王は一向に気にしていないようだった。
「これをくれるのかっ、タダで」
「もちろん。売り物じゃないからお金なんて貰えないし」
「うむ。おぬしはなかなかわかっておるな! 気に入ったぞ」
「どういたしまして」
魔王はゲンタから紙箱をひったくるように貰い受け、ぴょんぴょんととびはねた。そのはしゃぎっぷりにタカシはあきれるばかりだった。
「いいのか、本当に?」
「あぁ。いいよいいよ。マジであげる」
ショーケースに手のひらを乗せ、ゲンタは目を細めた。
「ま、俺の親父のケーキに比べたら失敗作もいいとこなんだけど」
ゲンタはショーケースのなかのケーキを見つめ、つぶやくように言った。
「どうしてなんだろうなぁ。パリで修行してきたわけでもないし、有名ホテルでパティシェを勤めてたわけでもない。なのに、親父のケーキはうまいしみんなから愛されてる。一口食えば誰だって笑顔になる」
ふぅとひとつ息を吐き、ゲンタはまじまじと喜びまわる魔王を見つめる。
「マジで言うと俺のケーキであそこまで喜んでくれたのは魔王さんが初めてだ」
「あれはどうかと思うがな」
「だよなー」
わかってるけどサ、とゲンタは苦笑いした。




