【ケーキショップ猪熊】
【ケーキショップ猪熊】
「おおよそケーキ屋らしくない名前じゃのぅ。せめてINOKUMAと横文字にせんか」
魔王は看板を見ながらそうつぶやいた。しかし、周囲にはばっちりと聞こえていた。
「あぁ、ここは」
タカシが何か言う前に魔王はさっさと自動ドアをくぐった。どうやら店に充満し、あふれ出る甘い香りにはかなわなかったようだ。
「いらっしゃい」
洋風でかわいらしい飾り付け、色とりどりのケーキのショーケースの後ろに立っていたのはこの空間に最も似つかわしくない毛深い青年だった。
「えーと、麻島だっけ?」
「なんじゃタカシ、この熊と知り合いか」
魔王は青年に対する率直な外見の感想を言うと、タカシはとりあえず殴っておいた。青年はその評価に慣れているのか怒らず、苦笑している。
「一応、同級生なんだけど。クラス離れてるけどサ」
「見えんのぅ」
「よく言われる。名は体をあらわすって本当だな、ケーキより毛皮売ってる方が似合ってるってサ」
「フルネームは?」
「猪熊ゲンタ」
「ふむ。納得じゃ」
「だろー」
困り顔で微笑む青年は、その外見とのギャップを自虐ではなく悲壮感を感じさせない笑い話にしていた。それかゲンタはタカシの方を見る。
「それよりウチのケーキ買いに来てくれたのか?」
「まーな」
「ふーん、麻島はあんまし甘いもの好きそうじゃないけど」
「硬派っぽいし」とゲンタも見た目で判断したが、間違ってはいない。
「おれはな」
タカシが視線を落とし、ショーケースの下方を見る。その先にはべったりと額をはりつけ、鬼気迫りくる表情でケーキを見ている魔王がいた。




