【個人商店の行く末】
【個人商店の行く末】
「どうしてウチの野菜が売れないのか。わかるか?」
「ぬ」
今度はタカシから訊かれ、魔王はわずかに首をひねってみせた。
「売る努力はしておるのだろう?」
「ああ」
「なら、その努力がなかなか実らぬ何かがある」
魔王が「違うか?」と返すと、タカシが少し寂しげに微笑んだ。
「―――正解。ウチがどれだけ野菜を安くしても、おまけしてもなかなかかなわない相手がいる」
「もしや、それはコンビニとやらではないか?」
「半分正解」
「ではスーパーマーケットか」
「それもさっきの半分に入ってる」
タカシにそう言われてしまうと、魔王が答えに詰まってしまった。まだ教科書や参考書、辞書などを丸暗記すれば出来る勉強に入らないことに魔王は弱かった。それでもタカシに「わからぬ」と言いたくないらしく、押し黙って考えていた。
「信用だよ」
「ほぅ」
魔王が答えを見つけるよりも先にタカシがそれを言ってしまった。しかし正答としては予想外だったのか、魔王は少し驚いているような表情を見せた。
「この店は腐ったものでも売りつけたことがあるのか?」
「違ぇーよ。なんつーか、知名度っつーか安全っつーか」
どう言うものか頭で理解していても、うまく口に出せないらしかった。がしがしと頭をかいて、それでも思っていることが伝わるように言葉をつむいだ。
「全国チェーンしてたり企業がついてるコンビニやスーパー相手じゃ、まず資金力が違う。仕入れの量が変われば原価も変わる。値段競争じゃかなわねぇ」
「そりゃそうじゃ。沢山仕入れればそのぶん安く出来る。そこに利益を乗せたら差は格段じゃろうて」
資金力がある企業は他のライバル企業や店舗に勝つために赤字覚悟、採算を捨てての大安売りを打って出すこともある。戦略としては決して卑怯なものではなく、その前には個人商店など相手にならない。しかし、企業の脅威はそれだけではないのだ。
「もしウチが仮に……ほぼ毎日のようにスーパーマーケットと同じ値段に出来たとしても、だ。まず個人商店で買おうっていう人は殆どいない。理由は知らねーんだ」
それは知名度を上下させる広告や宣伝の為だ。タカシの家のような店ではせいぜい地元商店街と共同でのチラシ1枚だが、企業付きのスーパーはそれ以上の大々的なものを刷ってくる。全国展開しているコンビニはチラシも呼び込みが必要ないほどにその知名度と利用頻度が高かった。
「知らないだけじゃねぇ。同じ値段なら、ウチみたいな小さい店で買うよりも大きな店で買った方が安全だって・間違いないって周りは思っちまう」
値段でも知名度でも決定力に欠ける個人経営に厳しい世の中なのはその経営者自身がわかっている。だから、選択は諦めるか続けるかなのだ。それ以外に選択肢はない。諦めればゴーストタウンのような商店街が生まれ、打開策もなく続ければいずれ潰れるだろう。
「ま、今までのはなんとなくやってきたおれの意見だから、実のところはもうちっと見込みがあるかもしれないしないかもしれねぇ」
タカシはぐっと背伸びをしながら、遠くを見た。




