【9月11日】
【9月11日】
「ヒマじゃ」
朝から店先に立つ魔王が簡潔にそう言った。休日でも制服にエプロンというスタイルは崩さない一方で、タカシはラフなTシャツとGパンに首にタオルをかけて作業している。
「じゃ、手伝え」
「イヤじゃ」
段ボール箱を抱えて運ぶタカシをあっさり見捨てて、再び「ヒマじゃ」と言った。
「ま、土曜の午前中だからな」
「昨日はやりがいがあったのぅ」
魔王がほぅとため息をつくと、タカシは眉をひそめた。毎日がああなればこの上なく嬉しいことだが、今となってはあれだけ客が来るのは珍しいことなのだ。
「そうなのか」
「ああ、厳しいな」
しかし、魔王は呼び込みしかやっていない。実際に客をさばき、忙しく働いていたのはタカシとミツルにミカコ3人だ。それでも魔王側は充実感があったと言うのだから、タカシ側の方からは何も言うことはなかった。
【日常会話をいちいち覚えてる方も凄いよな】
「それはそうと、どうじゃ、ワシの言う通りになったじゃろ」
「?」
その言葉は唐突で何のことかわからず、タカシは無視することにした。魔王は更にそれを無視して胸を張り、続けた。
「タカシの友人がこの店に来ることになるだろう、と」
「……いつ言ったよ。それ」
「ついこの前、ワシが転入する前日じゃ」
「日曜かよ」
確かに魔王はそのようなことを、「では明日以降からは誰か来るであろう」と言っていた。その後は「魔王の勘」とぼやかしていたが、あれは魔王なりのサプライズ、そして月曜日への伏線だったのだ。
「タカシは学友が家に来るのは嬉しくはないのか?」
「ま、多少はな」
「どっちじゃ」
魔王がいぶかしむのを適当に流し、タカシは店の裏手へ段ボール箱を運び入れに行った。
―――今更なんだってんだ。
クラスメイトが何人店に来ようと常連になってくれようと、タカシの生活は変わらない。魔王がいる今も、根本から変わったとは思えなかった。




