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【呟き】

 【呟き】

 タカシに背を向けた魔王の背は、先ほどの自信に満ちたものとは大違いだった。なんて小さな背中だろう。

 その背中よりも、もっと小さな声で呟いた。

 「……ワシの話を最後まで聞いてくれたのはタカシが初めてじゃ」

 次元移動から今日この時まで―――話を聞こうともせずに魔王の振舞いや言動に戸惑い、逃げる人々。同情を受けても、他の誰かからそれを無為にされた。

 「菓子まで馳走になったのに力を振るって悪かったのぅ……ふざけが過ぎた」

 ゆっくりと、一歩一歩部屋の外へと進む。魔王の足取りは、何かを期待しているかのようで。

 ―――情けない。

 それはわざとらしすぎて、魂胆が見え見えとも取れる行為。……魔王は恥じた。

 「失礼する」

 魔王はまた進む。今度は力強い足取りで。既に迷いや未練は断ち切って、部屋の障子に手をかけた。

 「夕飯食ってけ」

 「要らぬ」

 魔王はぴしゃんと障子戸を閉めた。が、影が部屋の内側に透けて見える。

 ―――まだいる。

 タカシもくるりと障子戸から背を向けた。背中越しに何となく感じる魔王の気配。

 「……そういえば、ワシはタカシに小石をぶつけられたのぅ」

 そうぼそりと魔王が小さく言うと、タカシは少しむっとした。

 「あやまったろうが」

 「愚民め。あのようなあやまり方では、仮にも魔王であるワシに対しての誠意が足らん」

 タカシはぶすっとしながら、ぶっきらぼうに返した。

 「……なら、おれはどうすればいいんだ」

 透けて見える影は口調とは裏腹に、まだ小さく見える。

 「うむ。万能のワシと違うて平民に出来ることは限られておる。ここはひとつ、どうじゃ。……精一杯の食事ともてなし、宿の提供で許してやろうではないか」

 タカシは眉をひそめ、しかし安堵の息を吐いた。

 魔王の話が本当なら……愛されていた祖父に愛していた平民に殺されるのを間近で見た後、迷う間もなく最高位の支配者・魔王の継承。護るべき平民と眷族の滅亡。誰もいない次元(せかい)での孤独。

 「……」

 そんな小さな身体でよくここまで背負ってこれたものだ。いや、背負いきれなくなったから生まれ故郷である次元を、無理やり魔王の力で飛び出してきたのだ。

 ―――いや、マジで信じがてぇよな。

 それでも、魔王の誇りや尊厳を失ってはいけないと意地をはる。魔王たるもの、同情やほどこしは受けず、ただ欲さずとも与えられて当然でなければならない・というのだ。

 ―――なんてメンドくさいヤツだ。

 タカシは後悔した。何の因果で、こんな魔王と引き合わされたのだろうか。だが、乗りかかった船だ。それが泥舟が宝船か、降りるかどうかはもう少し様子を見てから決めてもいい。

 「わぁーったよ、魔王」

 「様を付けんか、愚民」

 タカシが再びくるりと向きを変え、障子戸の方を見た。それと同時にタカシの目の前で魔王が勢いよく障子戸を踏み倒し、ふふんと胸をはっている姿があった。

 「しかしながら、殊勝な心がけであるぞ。のぅ、タカシ」

 破いた障子戸の上で偉ぶる魔王にタカシはその頭をげんこで叩いたのだった。

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