【千客万来】
【千客万来】
「どーも。いらっしゃい」
ミツルが愛想良く会釈をするが、乾はにこりともせずに訊いてきた。
「あんたはバイト?」
「や、無料奉仕」
「金にがめついあんたがねー」
くっくっと小さく、ここではじめて笑う乾にミツルも爽やかな微笑みで返した。
「乾さんこそこうやって来るの珍しくない?」
「ウザッ」
笑顔も消えて「たまたま通りかかっただけ」とドライに続くが、それでもキツい言われようにミツルが肩をすくめた。背後から無言で、アンナが何か羨んだような目で乾とミツルを見てくることもあってだろう。
「んー、あれ? 甲藤と乾さんじゃね?」
「……」
「うそー、冗談かと思ってたのにィ」
「麻島の家ここ?」
「なんか先客いるよー」
同じクラスでよくつるんでいる月本と蒔田と椎橋、仲島と西桐のグループまで現れた。騒がしい団体客に乾が露骨に嫌そうな顔をするのを見て、ミツルは小さく吹き出した。
「帰るわ」
「そうだね」
言うよりも早くさっさと乾はそのグループの間をわざわざ強引に通って帰っていった。避けたり、別の道を行こうとしないのが実に乾らしいとミツルが妙に感心していた。
「あれぇ、乾さん帰っちゃった」
「なんでだろー」
「……」
「それよか麻島はどこだ?」
「甲藤も何してんだよ」
「んー、お手伝い」
口々に、騒がしく興味や質問が飛んでくるのにはミツルは閉口していた。しかし、それも魔王の姿を確認すればそちらへと流れていった。
「魔王さんがマジで働いてるー。呼び込み?」
「おぉ、おぬしらも来たのか」
「八百屋なんだ。へー」
「あれ、アンナちゃんもいる」
「制服にエプロン。だが萌えん!」
「……」
「こらぁあっ! 失礼だぞぉおっ!」
タカシはやれやれ、とひと息つくとミツルもあの場から離れて戻ってきた。しかし戻れば、それ以上に元気で騒がしいおばちゃん達との戦いが待っている。
「千客万来だねぇ」
「ま、学校のやつらが来るのは初めてじゃねーけどな」
どっこいしょ、とタカシが段ボール箱を抱えて裏へ運んでいった。ミツルはおばちゃんからお金を受け取り、ゴーヤをビニル袋に入れて手渡した。




