【アンナは思考のなかでも叫んでる】
【アンナは思考のなかでも叫んでる】
魔王は淡々と客を呼び込んでうまい具合にタカシの方へ流しているが、アンナは依然ファイティングポーズを取ったまましている。
―――どうしようぉぉぉおおっ! ミ、ミツルに客を回したら忙しくなりすぎて死んじゃうんじゃないかなぁぁぁぁあぁぁっ!
頭を抱え、アンナが悩む。
―――きょ今日はお客さんが多いって言ってたなぁあっ! で、でも私はミツルの為にも勝ちたいぃぃぃぃいぃぃいっ!
身体をひねり、アンナは更に悩みぬいた。
―――だけどその為にミツルを過労死させるわけにはぁぁあぁぁぁあぁっ、どうしたらいいんだぁぁあぁぁぁぁあっ!
そのアンナの思考が手に取るように読める魔王は呼び込みを続けながら、したりと笑った。
―――ふっ、愛するが故の葛藤。まだまだ青い。呼び込みの声が途切れておるぞ。
魔王は後ろに忍び寄る影が何なのか考えもせず、ぽつりとつぶやいた。
「勝ったな」
「客で遊んでんじゃねぇよ」
ごつんとタカシのこぶしが魔王に落とされた。不意打ちに魔王は痛がるよりも先に驚いたようで、それに連鎖するように思考が飛んでいたアンナも我に返ったようだ。
「真面目にやれ」
「ぐぅ……のせられた返礼をしてやろうと思うたのに」
そう愚痴る魔王にミツルが「あ、しっかり聞こえてたよ。やっぱり」と苦笑した。
「んなことだろうと思った。閉店までしっかりやれ」
タカシは2人にはっぱをかけ、自らも持ち場に戻っていく。
「ったく、しょーもねぇやつらだ」
それでも、のせられていることを知ったのに魔王は自らの持ち場は放棄しなかった。自らのプライドより責任感が勝ったのだ。それは当然のことだが、評価するべき事でもあった。
―――あぁ、こういうとこかもな。
魔王が人を惹きつけるのは有言実行を体現しているからかもしれない。責任を持って、自らの立場から出来ることをきちんとやる。ひねくれた実行や返礼はあるが、言って何もしないことはない。誰もが一応納得出来る形まで無理やりにでも持っていく。
「まぁまぁ。タカシも……あっ、奥さん、ついでにそれひと山持ってきません? 安くしますよ。そっちは、ええいまとめて500円でどうですか」
タカシをなだめつつミツルはテキパキとハキハキしながら動き、客と談笑し楽しんでいるように見えた。お釣り計算も早く、元来の愛想と要領の良さも活かされていた。
「甲藤の方がタカシより向いているのではないか?」
「うるせーよ」
「流石だぁあぁぁぁあぁあぁあっ! ミツルゥゥウウウゥゥッ!」
アンナがミツルに惚れ直し、客で出来た人だかり、その頭上を飛んで抱きついた。今度はうまく受けとめてみせ、周りから歓声と拍手を貰っていた。




