【もののあはれな】
【もののあはれな】
「おぉー、帰ったか」
「いちいち騒ぐなっつの……って、なんだ、生徒会長様が来てたのか」
タカシが帰ってきたことに驚いたのか、カオルは表情も崩さないが何の反応も示さない。
「おれに説教か? それとも魔王の様子を見にか? 話があんなら、あがってけよ」
「いや、買い物だけだ。気遣いは無用。では、また学校で」
カオルは若干早口でそれだけ言うと、ミカコがじゃがいもを受け取ってさっさと行ってしまった。タカシは状況がつかめずにいるようで、アンナに取りつかれている魔王に訊いたが、鼻歌を口ずさむようななで声でごまかされた。
「いやいや、別に……のぅ」
「んだよ」
はっきりしない。
「なぁーに、やはり勇者も平民の内とわかっただけじゃ」
魔王が意地の悪い笑みを浮かべると、タカシは「なんだそりゃ」と言いながら愛チャリをしまいに裏へ行った。
「……と、おぬしはいい加減離れんか!」
「ミツルは渡さんぞぉおおぉおおおぉおぉおぉおぉぉっ!」
しつこく涙目でしがみつくアンナに対し、魔王が身体を大きく震わせる。その勢いで振り払われてしまったアンナはきれいな放物線を描き、店の外に出て行くべきか迷っていたミツルに嬉しそうな表情で愛の……フライング・ボディアッタクを食らわせてしまったのだった。
【むしろタカシとぶつかった時より痛かったね】
「ていうか、技に発展する必要は無いよな」
「飛んだまま抱きつこうとしただけなんだぁああぁぁああぁぁあっ! ごめんなさいぃいいぃいっ!」
「包帯巻いたまま抱きとめられるわけないだろ」
えぐっえぐっと泣いてわびる加害者のアンナを、何故か被害者であるはずのミツルが慰めていた。人生とはそういうものじゃと魔王が大げさに語った。
「ていうか、俺達ってお邪魔かな」
「まぁ、店が忙しい時は相手してやれねぇな」
麻島青果店の奥、家の座敷に上がりこんでいるミツル達にタカシがそう告げる。週末の今日の入りはいつもより多いぐらいだった。
「なんか手伝おうか?」
「いや、ま、流石に……やらせるわけにはいかねーな」
「無料奉仕だよ」
「表出ろ」
タカシがケンカをふっかけるような声を出し、無造作にエプロンをつかんでミツルとアンナに投げつけた。




